名酒発掘に努める「地酒の達人」 利き酒勧める八尾の酒店店主、三井聖吉さん/大阪
秋はお酒の恋しい季節。日本酒ファンの間では、知る人ぞ知る「地酒の達人」が、大阪にいる。八尾市の三井酒店3代目店主、三井聖吉さんだ。若いころから全国の蔵元を訪ね歩き、自身の五感と美意識を頼りに、隠れた名酒の発掘に努めてきた。三井さんは「お酒の良し悪しを見究められる若い人が増えてきた」と喜んでいる。
利き酒で名酒の三拍子を体感
住宅街にある三井酒店を訪問すると、利き酒を勧められる。三井さんは清酒と焼酎を合わせて日本酒と呼ぶ。鑑定官が酒質の鑑定に使う蛇の目猪口(ちょこ)に、清酒を注ぐ。 利き酒にはふたつの目的があるという。ひとつは名酒の味わいを体験することだ。 三井さんは「猪口を口元に運ぶと、心地よい匂いがふわっと香り立ち、口に含むとまろやかな味がふっくら広がる。そして飲み干すと、後味はすっきりというのが、名酒の条件です」と話す。この「ふわっ、ふっくら、すっきり」の名酒三拍子を、利き酒で体感してほしいと説く。もうひとつの目的は、自分の好みに合った酒を探すこと。「三拍子そろった名酒にも、個性があります。利き酒で飲み比べることで、自分の好きなタイプのお酒を絞り込んでいく能力を養うことができます」(三井さん) 消費者の「利き酒力」強化に向け、店舗での利き酒のほか、複数の蔵元に呼びかけ、大阪市内で有料試飲会を開催してきた。
タンクごとに酒質が違う日本酒の奥深さ
30年来、地方の蔵元を訪ね歩く。酒造りの現場で知り合った名杜氏らの薫陶を受けて、隠れた名酒を発掘するとともに、日本酒の再生振興に努めてきた。同じ杜氏の仕込みでも、隣り合わせのタンクで酒質が異なるなど、日本酒は奥行きが深い。 日本酒の状況を「焼酎は一時のブームが落ち着いた半面、清酒の良さが見直されてきました」と分析する。とはいえ、名酒だからといって、高価な酒ばかりを押し付けるわけではない。 「一升瓶入りの清酒で3千円出していただければ、お好みの地酒をご用意できます。しかし、作っても売れない苦境を教訓にして、近年は蔵元の技術革新が進み、2千円台でも十分美味しいお酒が手に入るようになりました」と付け加える。