犬や猫と同じ生き物なのに…日本で進む野生動物のペット化と軽んじられる命
野生動物への意識も規制も緩い日本
犬や猫の虐待事例に関してもまだまだ課題はあるが、逮捕事例も少しずつだが増えてきている。しかし、犬猫以外の動物に関しては、「前例がない」「どう扱っていいかわからない」ということで、起訴に至らないケースも少なくないという。 「さまざまな動物の虐待案件をみて感じるのは、犬猫以外の動物がいじめられていても、あまり関心を持たれないということです。もちろん、動物福祉の視点を持って動物を考える方もいますが、野生動物の動物虐待事例が起きても世論として目立った動きは、犬猫に比べるとまだ少ないと言わざるをえません。この現状が多くの日本人の見方なのかもしれません。それがいいとか悪いとかいうことではなく、野生動物に対する意識や動物福祉の観点がまだそこまで醸成していないと感じています」 海外では野生動物の虐待事案があると、厳罰に処されているのだろうか? 「一律には語れない部分はありますし、欧米でも野生動物の虐待や密輸の問題はありますが、まず野生動物に関する環境や法整備が異なります。欧米では野生動物は身近にふれあえる存在ではありません。世界的に見ても日本は野生動物とふれあう場所が多い特殊な国ともいえます。ですから、日本のような虐待事件も多く発生しない、といった方が正確かもしれません。欧米諸国でも野生動物をペットにする人はいますが、基本的には野生動物に会うのは、「動物園や水族館で」が一般的です。 動物園でさえ、今は飼育できる動物が限定されています。例えば、シャチやイルカは水族館で飼うべきではない、ましてやショーなどはするべきではない、という考え方が浸透しています。それに比べ、日本では、アニマルカフェや動物のふれあい施設、ペットショップにも犬や猫もいれば野生動物もいる……。日本は、多様な形態で非常にたやすくペット化された野生動物とふれ合うことができる、と認識している外国人は少なくないと思います」 訪日外国人が、日本でアニマルカフェやふれあい施設に行きたがるのは、自国には存在しないスポットで珍しいことが最大の理由だからだ。もちろん、欧米にもふれあい動物園や移動動物園は存在する。しかし、少し形式が異なると田中さんは言う。 「私はアメリカで20年近く暮らした経験がありますが、アメリカにも“ふれあい動物園”のような施設は存在します。例えば、ハロウィンの時期になると移動動物園というものが近所にやってきます。でも、そこにいるのは犬や猫、ウサギ、牛、馬、ヒヨコなど、長年人に順化された歴史があるペット化された動物や家畜が中心です。 日本のようにカピバラやミーアキャット、ナマケモノがいるということはありません。ましてやカフェやショップ店内に野生動物を展示したり、販売したりすることはまずありませんし、国によっては、販売できる野生動物やペットに規制があるところもあります」(田中さん) 野生動物に対して日本はかなり稀有な接し方をしている国である、ということをまず知ることが第一歩なのかもしれない。 ◇後編『野生動物にとっては苦痛でしかない…「アニマルカフェ」「ふれあい動物園」の現実』では、引き続き、日本の野生動物の課題とともに、どうしたら「かわいい」「珍しい」のアニマルビジネスを減らすことができるのかを田中さんとともに考えていきたい。
牧野 容子(エディター・ライター)