犬や猫と同じ生き物なのに…日本で進む野生動物のペット化と軽んじられる命
コツメカワウソを虐待していた実例
ここ数年、動物への虐待事件が発覚し報道されるようになった。2021年秋には、無麻酔での犬の帝王切開などを行った長野県松本市劣悪繁殖事業者の事件、今年5月にも埼玉県の動物飼育施設で繁殖していた犬3匹をビニール袋に密閉して窒息死させる事件が起こっている。犬や猫に関する虐待事件は後を絶たない。 しかし、虐待されているのは犬や猫ばかりではない。飼育数が多いことや、馴染みがあるということで犬や猫の問題は表面化されるが、野生動物に関しても虐待は存在する。田中さんがいる日本獣医生命科学大学では、国内で発生した動物の虐待事例の実態把握を行っていて、野生動物についてもさまざまな事案が持ち込まれているという。 「これは有名な事件だったのでご存じの方もいるのではないかと思いますが、カワウソのインフルエンサーによる虐待事例がありました。飼育している2頭のコツメカワウソ(10歳オス、3歳メス)のうち、メス1頭を飼い主の女性が虐待していたというものです。彼女は“メスがなかなか懐かず、エサをやるときに噛まれる”という理由で、紙を丸めた棒のようなものでカワウソをボカボカと殴り、追い回したりしていました。その動画がインターネットに流出し、通報を受けた警察が家宅捜索をしてカワウソを収容。本人は“しつけであって虐待ではない”と言っていたようですが、動物愛護法違反容疑で書類送検されました」(田中さん) つぶらな瞳の可愛らしい顔立ちや愛嬌あるしぐさ、すばしっこい動きで水族館や動物園で人気者のカワウソだが、当たり前だが野生動物であり、飼育の難易度も高いこと、生物多様性保全の観点などから、飼育目的の輸入が2019年から禁止されている。しかも、虐待した女性が飼育していたのは、ワシントン条約で捕獲や取引が制限されている「コツメカワウソ」だ。野生に住むコツメカワウソはペット化に伴う乱獲などで、この30年で生息数が約30%も減少。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「危急種(VU)」に指定され、世界でも特に守らねばならない野生動物のひとつだ。 「カワウソは、見た目はかわいいですが実際には気性は粗めで、噛むこともあります。しかも、噛む力は大型犬と同等あるいはそれ以上です。ペットにしている人がいると、カワウソも犬や猫のように飼育できると思ってしまう人が多いですが、犬や猫は1~3万年という長い時間をかけて人と共に暮らすように馴化された動物です。カワウソにそういった馴化の歴史はありません。SNSやネット動画で、人慣れしている姿を見せていたとしても、動物学的にいえばそれは“たまたま”であり、それが野生動物というものなのです。 そして、野生動物でも、噛むから、人慣れしないからしつけだ、といってボコボコ殴るのは、立派な虐待です。同じことを飼っている犬や猫にしたら警察沙汰になります。一方で、飼育下にある野生動物の虐待については、まだまだあまり問題視されていないため、虐待の立件には壁があると思っています」(田中さん)