TSMC進出で熊本市の鶴屋百貨店「桁違いの購入する顧客が増えている」けれど…多くの地方百貨店は苦境
熊本市の鶴屋百貨店の本館地下1階にある和洋酒売り場には、今年初めから10万~20万円のワインを数十本単位で買っていく客がたびたび姿を現すようになった。車で40分ほどの熊本県菊陽町では年内にも、半導体受託製造の世界最大手「台湾積体電路製造(TSMC)」の工場が本格稼働する。鶴屋は「その関係者だろう」とみる。 【図表】九州各地の百貨店の主な動き
TSMCが熊本進出を発表した2021年冬以降、熊本県内には半導体に関連する企業の進出が相次ぐ。鶴屋は4人の「特命チーム」を結成して約50社を訪問させ、進出する企業の幹部が家具や寝具をまとめ買いした例もある。23年秋には熊本―台北間の定期便が就航し、台湾からの買い物客も一気に増えた。総額売上高に占める免税品の割合はコロナ禍前と比べて2倍になったという。
建設や道路の整備に携わる地場企業の関係者が、絵画や高級腕時計を購入するケースも目立つ。担当者は「桁違いの購入をする新規の顧客が増えている」(広報)と、盛況ぶりに目を見張る。
10年で売上高4割減
ただ、地方都市で鶴屋のような「世紀の大チャンス」(流通関係者)に恵まれるケースはまれで、九州の地方百貨店の多くは苦境に立たされている。00年代以降、大規模な駐車場を備えた郊外型の大型ショッピングモールの進出が相次いだ上、JR九州の駅ビルも各地で刷新され、顧客の流出が加速したからだ。
15年には熊本市の県民百貨店、20年には北九州市の井筒屋黒崎店が閉店するなど、減少の一途をたどる。日本百貨店協会によると、福岡市を除く九州・沖縄の23年の店舗数は12店と10年前の17店から約3割減り、合計の総額売上高も約4割減の2097億円となった。訪日客で活況となっている福岡市の4店の合計(2264億円)を初めて下回り、苦しい経営が浮き彫りとなる。
郊外店との差別化難しく
背景にあるのは地方の厳しい現実だ。東京や大阪、福岡といった大都市の百貨店は富裕層や訪日客の需要に沸くが、地方は元々、富裕層が少ない上、海外との直行便が少ないため訪日客も取り込みにくい。集客の要となる高級ブランドの撤退などで百貨店らしさも薄れ、郊外店との差別化は難しくなっている。