北朝鮮が韓国の「戒厳令・弾劾」にとても冷静な理由
2024年12月3日深夜に韓国で突如として発表された「非常戒厳」(戒厳令)。戒厳令を発表した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は国会の多数を占める野党に押され約6時間後に解除を強いられた。その後、韓国国会は尹大統領の弾劾訴追案を可決。憲法裁判所による審判と、韓国政治は混乱と空白期を迎えている。 韓国と対峙してきた北朝鮮はこの事態をどうみているか。北朝鮮・朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』は12月11日になって初めてこの事態に反応した。その後、同月12日、同月16日と報道している。ところが、その報道ぶりがこれまでの韓国関連の報道と比べると変化しているようなのだ。例えば、北朝鮮は韓国への内政介入とも思われる言葉で韓国を強く批判する報道が過去にあったが、戒厳令という重大な事件について淡々と事態を説明する論調を続けている。 【この記事の他の画像を見る】
こういった北朝鮮メディアの報道の変化にどのような意味や意図があるのか。北朝鮮情勢に詳しい、日本経済研究センター特任研究員の李燦雨(リ・チャンウ)氏に北朝鮮の反応について話を聞いた。 ■戒厳令布告から1週間の沈黙 ――12月11日付『労働新聞』は「傀儡(かいらい)韓国で非常戒厳事態、社会的動乱が拡大、全域で100万人以上の群衆が尹錫悦弾劾を要求する抗議行動を展開」との見出しで初めて報道されました。戒厳令布告から1週間後の報道というタイミング、あるいは1週間は無反応だった北朝鮮の態度をどうみますか。
今回、12月11日付の最初の報道をみると「外国で起きた非常事態についての説明報道」というトーンだ。これまでの北朝鮮は、韓国の政治問題にあたかも介入することは当たり前といった声明を出し、宣伝扇動も行うという「統一戦線」戦術を使ってきた。ところが、今回は「敵対的な外国の国内情勢について知らせる」といった内容といえる。 報道までに時間がかかったのは、韓国での戒厳令の布告と、国会によるその解除決議という事態の発生に対する分析に時間がかかったとみられる。韓国で戒厳令はこの44年間なかった。そして国会による解除決議は初めてのことだ。その後の事態の動き、例えば第2の戒厳令が布告される可能性をも見極めていたのだろう。