港区のイタ飯店で1万円札に火をつけて葉巻を吸う客…店内にいた画家が「貴様出てけ」の後に言った痛快な言葉
■40代以降は夏でもスーツを着るべき 【松浦】マナーでよく話題にあがる服装も、結局は自分の気持ちの示し方でしょう。普段は何を着たっていいと思います。ネクタイは嫌だ、Tシャツが楽でいいというなら、それもまったく構わない。職場でカジュアルな服装をることも受け入れられる時代ですから、自分の好みで問題ない。ただ、誰かに会うのであれば、その人への敬意を自分なりに服装で示さないと失礼になります。 【野地】服装で思い出すのは、1998年にインタビューしたポール・マッカートニーです。僕はビートルズを日本に呼んで公演を成功させたプロモーターである永島達司さんの本を書くためにロンドンに取材に行きました。ポールがインタビューを受けるのは5年ぶり。ソーホースクエアにある事務所の前に30分早く着き、緊張しながら待っていると、ポールがバイクに乗ってやってきました。 ところが、その恰好がスターじゃなかった。パンツはヨレヨレで膝が出ているコーデュロイ。ベルトは長すぎて、余った部分が30cmくらいベロンと垂れていました。それを見て、世の中にはいい服を着る必要がない人がいるんだなと。本人がブランドだから、わざわざブランド品を身に着ける必要はない。 【松浦】自分が人にどう見られようと関係ないくらいすでに成功していれば、自由奔放でも許されるのでしょう。ただ、ポール・マッカートニーもエリザベス女王の前では恥ずかしくない恰好をしているはずです。 結局、どんな服装がふさわしいかは、相手への敬意しだいではないでしょうか。実は今日は暑いので、この対談にジャケットやネクタイで来るつもりはありませんでした。しかし、野地さんとご一緒するならジャケットを着ないと敬意が伝わらない。それが基本です。 ただし、杓子定規にドレスコードにこだわる必要もありません。もし野地さんがネクタイを締めていたら僕もそうしたほうがいいからネクタイを用意してきたし、逆に野地さんがジャケットを着ていなければ僕もジャケットを脱ぐつもりでした。相手に敬意を払いつつ、想像力を働かせて柔軟に考えればいい。 【野地】僕は今日、スーツを着てきました。若いころはスーツを着るタイプではなかったんです。昔はスルメイカみたいな体形で、似合わなかったから。 それが中年になるとおなかが出てきて、逆にTシャツが似合わなくなってきた(笑)。足も短いし、今はスーツを自然に着こなせます。40歳を過ぎれば、夏だろうがスーツを着るべきです。 一流の経営者も、みなさんスーツです。伊藤忠の岡藤さんは繊維部門の出身だけあっていいものをお召しだし、柳井さんはスーツ姿のときは必ずネクタイを締めて、略式にはしない。 謎なのですが、広告代理店の人と仕事をすると、いいスーツを着ている人のほうが優秀です。いいスーツを着ているから自信がつくのか、それだけで営業がデキる人に見える。 【松浦】普段はTシャツにジャケットという人も、いいスーツを一着持っていたほうがいいでしょう。日本も保守的ですが、イギリスはもっと服装に厳しくて、襟なしでは入れないレストランもある。私は海外に行くとき必ずスーツを一着持っていきます。 【野地】お店で恥をかきたくないですよね。樹木希林さんに2回、ご近所のフランス料理店でランチをごちそうしてもらったことがあります。僕は一応スーツでしたが、途中で脱いでワイシャツ姿になろうとしたら、「最後まで着ていないとダメ。お店の方に失礼でしょ」とたしなめられました。叱られながら、希林さんカッコいいなと。 【松浦】希林さんの考えにすごく共感します。私は40歳のころから日本料理「かんだ」に2カ月に一度、ひとりで勉強のために通っています。「かんだ」には、Tシャツに短パンのIT長者もよく訪れます。でも、私は必ずジャケットにネクタイ。夏も冬もです。なぜなら、きちんとした服装をすることが店主の神田裕行さんへの敬意だと思うから。希林さんが「ワイシャツは失礼」というのと同じです。 【野地】お店の人も、自分を尊重してくれる客を大事にしますよね。 【松浦】そう思います。隣のTシャツ短パンのお客さんは高いシャンパンを開けて1人30万円くらい使っているのに対して、私はお酒を飲まないから最低料金です。それなのに、カウンターの向こうの神田さんは私の前にいてくれる時間が長い。お金も敬意の示し方の一つかもしれませんが、身なりに気を遣ったほうがお店への敬意は伝わっている気がします。