「資本主義」は社会の発展に不可欠な必要悪?仮面ライダーと対峙するショッカー戦闘員が妙に貧弱に見えるワケ(後編)
人はそれを見せてもらうまで、『自分が何を欲しいのか』がわからない
中国もかつては典型的な社会主義国で、例えば農業は集団農場において「全員が公務員」という形で運営され、その結果、深刻な食糧不足が起きるレベルにまで生産性が下がってしまいました。しかし慌てた政府が「各自で自由に農作物を作っていいし自由に売っていいよ」という資本主義に近いルールを設定したところ、食糧事情は一気に解消しました。そして他の産業も同様に自由化したことで中国の経済は凄まじい勢いで上向き、あっという間に世界の経済大国にまで成長を遂げたのです。10億人を超える国民一人一人が下級戦闘員から正規の怪人クラスにまで戦闘力を上げたのだから、そりゃあ世界を支配できそうなほどの国力もつくというものです。 なお、ショッカー株式会社の戦闘員が空前絶後の武器を開発してイノベーションを起こしたように(私が勝手に妄想しただけだけど)、資本主義の下では、「今までになかったようなまったく新しい物や仕組みが生まれ、社会が進歩する」という現象も発生しやすいと言えます。例えばデジカメとかスマホとかVRとか、SNSとか動画配信サブスクとかクラウドファンディングとか……。 社会主義では国全体の生産計画をごく限られたトップのエリートたちが立てるわけですが、その時には、「この国に足りていない食べ物はなにか? 足りない工業製品はなにか?」という考え方になります。 するとどうしても、「計画者が知っている物」しか作れなくなるんです。なにしろ国の経済を背負い大量の労働者を動かすわけですから、変な冒険はできません。「珍しい食材を買って来てインスピレーションで料理を作る」という、まれに革命的なメニューも生まれるが9割9分は失敗する冒険は、一人暮らしならできますが栄養士さんが給食のメニューを決める時にはできないんです。たくさんの人に影響することですし、失敗は自分の首を飛ばしかねないわけですから。慎重になるのが当然です。 しかしそれだと、新しいものは生まれないのですよ。 「自動車王」と呼ばれたヘンリー・フォードの言葉に、「もし『何が欲しいか』を顧客に尋ねていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えただろう」というものがあります。また、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズは、「多くの場合、人はそれを見せてもらうまで、『自分が何を欲しいのか』がわからないものだ」と言いました。 iPodやiPhone、そしてフォードの時代の自動車など、「事前には誰も欲しいと思わないけど、それが登場したらみんな欲しがるかもしれない新しいもの」は、社会主義的な慎重な事業計画では生まれられないんです。エリートは失敗が許されないんですから。資本主義の、なんでも自由にやっていいし何回でも再チャレンジが可能な制度の中でなければ、革新的な製品や仕組みは登場しないんです。 もちろん、資本主義は資本主義で、自由に無謀運転をする起業家のPDCA事故に巻き込まれて血みどろになる犠牲者が続出するという欠点もあるわけですが……。 結局、国および組織の運営において、自由と平等どちらを優先すべきかというのはなかなか結論を出しづらい課題です。しかし幸い、我々の住む日本は自由なチャレンジが許される資本主義社会です。自由と平等、両方のメリットが最大限発揮されるような、革新的な制度の開発にみなさんも挑戦されてみてはいかがでしょうか?
さくら剛
【関連記事】
- 「資本主義」は社会の発展に不可欠な必要悪? 仮面ライダーと対峙するショッカー戦闘員が妙に貧弱に見えるワケ(前編)
- 【第4回】最大多数の最大幸福を目指す「功利主義」……“最大多数”に人間以外の生き物は含めるべき?(後編)
- 【第3回】最大多数の最大幸福を目指す「功利主義」……“最大多数”に人間以外の生き物は含めるべき?(前編)
- 【第2回】もしも新選組が「相対主義」だったら……!?(後編)──『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』より
- 【第1回】もしも新選組が「相対主義」だったら……!?(前編)──『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』より