「エグい」いじめ耐えた 売れっ子作家・燃え殻がつかんだ生きる意味 #今つらいあなたへ
「闇に球を投げるような感じ」で書いた文章、あふれた反応
「専門学校を出て、工場勤務をした後、テレビ美術の制作会社に入ったんですけど、会社があった六本木では、まだバブルの余韻を引きずっている人を見かけましたね。朝方仕事の配達で原付に乗っていたら、『ヴェルファーレ』から出てくる綺麗なお姉さんを連れた怖い人に追い払われたり」 「もっと大変な人生を送るはずだと思っていた」燃え殻にとって、その制作会社は、居心地のいいものとなった。勤続20年以上、現在は休職中だ。 「激務でしたけど、すごく恵まれていたと思います。入社した時は数人だった社員も、80人くらいになって、僕も管理職のようなこともやらせてもらうようになったり。20年以上サラリーマンをしているからわかるんですけど、『昨日も今日も一緒だ』って言う人は、本当に仕事をしているとは言えないんですよね。昨日も今日も明日も違うんですよ、そのちょっとした違いをわかっている人が、仕事を面白がれると思う」 Twitterを始めたのは、仕事を「面白がれる」ようになった頃だ。何気ない日常の1シーンを切り取った燃え殻のツイートは、現代の浮遊感を漂わせつつ、どこか懐かしい。じわじわと人気を博してフォロワーは増え、現在24.6万人。先月には2作目に当たる新作小説『これはただの夏』を上梓し、いよいよ作家活動に本腰を入れようとしている。 「ある意味、闇に球を投げるような感じで生きてきました。テレビ業界に入ったのも、そうです。その後、文章を書いて、また闇に球を投げたらいっぱい返ってきた。それがちょっと面白くなっちゃったんです。ここらで、学生の頃みたいな不安定な気持ちを、もう一回味わってみるのも悪くないのかな、と思って」
「僕はSNSで、それまで関わることのなかった人たちの意見を知りました。テレビの裏方だったから、狭いんですよ、世界が。でも僕にとっての『当たり前』が、別の人にとってはそうじゃなくて、自分が知っていることなんて、本当にごく一部だとわかった。SNSって、これだけ物事を分断させるように、ネガもたくさんあると思うんですけど、ポジがあるとしたら、多くの人生、いろんな人の今日を見られるところだと思う」 見ず知らずの人間に、「そこまで言うか」という言葉の矢を散々放たれてきた経験もある。 「例えばね、僕が『本を出します』ってツイートしたら、DMで『お前なんか出すな』って矢が飛んでくる。何か政治的な話をしたからってレベルじゃないですよ、正直(笑)。生きててなんでこんなこと言われなきゃいけないのって思うことはしょっちゅうあります。もう、そういう意味では、10年前からやりづらいし、萎縮してますよね。そういうもんなんだ、いろんな人たちがいるなって考えるしかない」 「Twitterの140字、それだけでは事実や人の本質はわからないじゃないですか。でも社会問題や、男女の問題に関して、全部わかったような感じで断じてしまう、“原宿から渋谷までの間に『それ間違ってるかと思いますよ』って国際政治学者にひとつドーンと言ってみた俺”って。親指一つで手軽に、万能感が出てきちゃうわけです。だんだん麻痺しちゃうというか、でも、それは嘘だなと」