【初夏の箱根旅行】ギャラリーで出合う一期一会のアートとスイーツ
豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。そんな“ローカルトレジャー”を、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が探す連載。山間を染める桜や藤を見送ったころ、訪れたのは新緑を迎えた箱根。好奇心をくすぐるアートとの出合いが箱根の旅を締めくくる 【写真】初夏の箱根旅行へ
《SEE&BUY》「箱根菜の花展示室」 特別な企画だけを、わずかな間のみ公開
多くの文人墨客と縁が深い箱根では、研ぎ澄まされた審美眼を貫くギャラリーと出合えるはず……。そんな期待を裏切らない、静謐な空間が「箱根菜の花展示室」である。小田原で120年以上の歴史を誇る和菓子店の3代目で、「和菓子 菜の花」を立ち上げた髙橋台一さんが日々の暮らしに溶け込む工芸に心を寄せ、「うつわ 菜の花」を開いたのが約26年前のこと。その小田原の空間は、中村好文の設計により内田鋼一や黒田泰蔵、赤木明登、安土忠久といった人気作家の作品と出合える場として、器好きの女性たち憧れの存在として知られる。
「箱根菜の花展示室」は、オーナーのコレクションである書家・井上有一の大きな作品を、のびのびと展示したいという思いから2011年6月に誕生した。第一回の企画展は、井上有一と内田鋼一の二人展。「貧」「愛」「上」「夢」「花」など力強い書の一文字と、存在感のある内田の土器が呼応するように配置された光景は圧巻だったとか。そうした深い思い入れをプロローグとするギャラリーだけに、この空間が開かれるのは「これぞ」という企画展の時に限る。 取材で訪れた4月下旬には、幸運にも企画展「牧山花 夏ころも」が開催されていた。絣糸から渾身の染めを施し、夏の着物だけにこだわって手機で凜と織り上げる染織家・牧山 花の着尺や絵羽が、ストイックな空間に涼やかな風を運び込んでいた。次の企画展は、夏を見送り、晩秋を迎えた11月。オーナーと長年の親交を深めてきた内田鋼一の大々的な個展が、ここ箱根で13年ぶりに催される。
ギャラリーを後に、坂道をくだった街道沿いには「和菓子 菜の花」を母体とする菓子店「ルッカの森」が佇む。「箱根菜の花展示室」の題字なども手がけるアーティスト、望月通陽の壁画を愛でながらひと休みするスペースも設置。