セブン・ショック 次の標的は=荒木涼子
祖業を切り離し、稼ぎ頭のコンビニに集中投資する──。セブン&アイ・ホールディングスの長年の懸案事項とされながら決断できなかった事業ポートフォリオの見直しは、1件の外資の買収提案であっさり決着した。筋肉質になり、ガバナンス改革が進んだ日本企業は気がつけば、円安も重なり「大バーゲンセール」になっていた。 「買収提案を経営陣が握りつぶすのも、以前ならあり得たかもしれない」──。セブンがカナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けていたことを明らかにした点をマネックスグループの松本大会長は感慨深げに語る。しかも、セブンが、その後、社外取締役で構成する特別委員会を設置し、そこで買収提案を受け入れるかどうかを検討するという手続きを何よりも高く評価する。 しかし、その一方で、松本氏によるとセブンの対応は日本企業の経営陣にとって「パンドラの箱を開けた」ことを意味するという。「今後、買収提案を受けた企業が、経営陣で検討するとしたら株主やマスコミから批判が来るだろう」 ◇ガバナンス改革 なぜセブンは買収提案を公開し、社外取締役らに判断を委ねたのか。背景には政府や東京証券取引所が長年促してきた、企業のガバナンス改革がある。 バブル崩壊後の1990年代後半以降、企業業績の低迷が続き、不祥事も相次いだのをきっかけにコーポレートガバナンス(企業統治)に注目が集まるようになった。2013年ごろから改革が本格化。15年には東京証券取引所が企業統治の原則・指針をまとめた「コーポレートガバナンス・コード」を導入した。 改革の一つの到達点が、経済産業省が昨夏に策定した「企業買収における行動指針」、通称“M&A(エムエー)指針”だ。大和総研の遠藤昌秀・主任コンサルタントは、「指針は法的拘束力こそないが、企業への影響は大きく、プロセスの透明化が進んだ。株主にとってメリットになる話は真摯(しんし)な検討を行う必要がある」と指摘する。