セブン・ショック 次の標的は=荒木涼子
今後、海外企業からの買収提案は増えるのか。丸紅経済研究所の今村卓所長は「失われた30年で多くの日本企業は着実にコストを削減して収益を積み上げた。一方で新規事業への投資はこれから。そこに改革が進み、伸びしろがあると良い意味でバレた」と話す。 企業は過剰設備を解消し、不良資産も手放し、“身ぎれい”になった。加えて東証は23年3月、「『資本コストや株価を意識した経営』の推進に関するお願い」を要請。「PBR1倍割れ改善要請」と報じられたものだ。その効果もあり、「1倍なんて考えられない」としていた経営層の意識も変わってきた。「皮肉にも、円安も重なり、海外勢から見たら、好条件のものがぞろぞろと店頭に並んでいるイメージだ」(今村所長) しかし、世界で人口減少社会の最も先端を走る日本にとり、現在の状況は起死回生のチャンスだ。これまで日本は、海外からの直接投資が圧倒的に少なかった。一方で松本氏は「日本のコーポレートガバナンスや資本市場の枠組みは米国と遜色ない」と評価する。そして、株主を大切にする企業も増えている。外資を呼び込む環境は整ってきた。 今村所長は「外には巨大なマーケットが待つ。日本には素晴らしい技術を持つ中堅、中小企業がたくさんある」と海外に目を向けることの重要性を指摘する。ASEAN(東南アジア諸国連合)や韓国などの企業も日本に注目しているという。「『買収からの防衛』というマインドは変えるべきで、傘下に入るのもよし、自ら海外に出るのもよし。今こそ資金や人を注入し、持てる技術を売り出すときだ」 セブンは10月10日、主力のコンビニ以外の非中核事業を分離すると発表。4月にはイトーヨーカ堂を中心としたスーパー事業の新規株式公開(IPO)に向けた検討を始めると発表していたが、買収提案を機に、早期の企業価値向上を目指す方針に転換した。ガバナンス改革と稼ぐ力をつけ“お買い得”に育った日本企業の経営陣は真価が問われる。
(荒木涼子・編集部)