【原油価格】第3次世界大戦の懸念でも市場の反応が鈍い理由、ロシアとウクライナのミサイル攻撃応酬の影響は限定的
ロシアとウクライナがミサイルを激しく撃ち合い、「第3次世界大戦」を懸念する声も聞かれる。だが、いまのところ原油価格の上昇は限定的だ。背景には長期化する中国の需要低迷のほか、沈静化の動きが出ている中東情勢がある。 【写真】ロシアからのミサイル攻撃で燃え上がるウクライナの建物 (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー) 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=66ドルから70ドルの間で推移している。週初めは下落圧力が強かったが、その後、地政学リスクが意識されたことで原油価格は上昇し、先週とほぼ同じレンジ圏内で推移している。 まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。 トランプ次期大統領は11月15日、米国を代表するシェール油・ガス田を擁する中西部ノースダコタ州のダグ・バーガム知事を、新設する「国家エネルギー会議」の議長に充てる人事を発表した。新たな会議にはエネルギー開発の許認可や生産、流通などにかかわるすべての省庁、機関が参加する。 バーガム氏は政府の土地や地下資源の管理を担う内務省のトップも兼務する。 トランプ氏は翌16日にもエネルギー長官に石油・ガス採掘関連のサービスを提供するリバティ・エナジー社のクリス・ライト最高経営責任者(CEO)を指名した。ライト氏は「民主党の気候変動対策は旧ソ連の共産主義のようだ」と批判してきた人物だ。 トランプ氏は選挙期間中「国内の化石燃料の掘削を急拡大し、原油価格を引き下げる」と主張してきており、これを実現するための布陣をいち早く固めた。 だが、ここにきて市場では「米国の原油生産の伸びは減速する」との見方が広がっている。
■ トランプ政権になっても米石油業界は大増産しない 11月20日付のブルームバーグは「来年の原油生産量の伸びは日量約25万バレルにとどまる見通しだ」と報じた。この予測のとおりとなれば、新型コロナのパンデミックで落ち込んだ2020年以降、最も緩慢なペースとなる。 主な要因は「来年の世界の原油市場が大幅な供給過剰となる」との懸念が広がっていることだ。10年前とは異なり、シェール企業は自らの増産によって原油価格が下がり、赤字に陥るとの失敗を繰り返すことはないだろう。 連邦政府の所有地開放などには時間を要することから、規制緩和の効果が表れるのはトランプ氏の任期以降になるとの指摘もある。 世界の原油市場で米国にシェアを奪われてきたOPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)は胸をなで下ろしているのかもしれない。 原油市場で「買い」材料となったのは、欧州地域の最大規模を誇るヨハン・スヴェルドルップ油田の生産停止だ。