カザフスタン、国民投票で原発建設を決定 受注はロシア、中国、韓国が有力か
中国や韓国の原子力技術の強みとは
西側に対するもう1つの戦略的競合相手である中国は、原子力発電所を積極的に建設しており、2030年までに米国やフランスの設備容量をしのぐと見込まれている。中国はすでにウラン鉱石と核燃料集合体の供給で、カザトムプロムとの関係を結んでいる。これにより、カザフスタンのウラン産業の近代化が進み、生産量も増加した。中国政府は、国営原子力企業の中国核工業集団が一括事業請負後譲渡(BOT)方式でカザフスタンに原子炉を建設することに意欲を示している。 ロシアのロスアトムには他国で原子炉を建設した実績があり、旧ソ連の中央アジア諸国で原子力発電を推進している一方で、中国製の原子炉には技術的な優位性がある。注目すべきは、中国が溶融塩炉(MSR)の開発に着手していることだ。MSRは冷却材に水ではなく溶融塩を使用する原子炉で、水資源が豊富でない内陸の中央アジアにとっては強みとなる。MSRはまた、高レベル放射性廃棄物の発生が少なく、ウラン・プルトニウムやトリウム・ウランの核燃料サイクルにも適応できる。中国は2030年までに数十基の原子炉を建設する計画で、うち13基は海外で建設中だ。中国と早期に協力すれば、カザフスタンは強大な隣国である中国が構築し始めた核供給網で第一線に立つことができるという利点もある。 一方の韓国は、業界最先端の原子炉技術をカザフスタンに提供することができる。カザフスタン政府は出力の低い他の炉型ではなく、韓国の改良型加圧軽水炉APR1400に関心があるのかもしれない。韓国電力公社傘下の韓国水力原子力は2019年からカザフスタンとの関係を築いており、両者は2022年に原子力技術の開発で協力する覚書を締結した。 外交の多角化を目指すトカエフ大統領は、これを巡る決断が容易でないことを認めている。同大統領は個人的な展望として「最先端の技術を持つ複数の世界的企業で構成される国際コンソーシアムがカザフスタンで活動するべきだ」と述べた。 カザフスタンが歩まなければならない地政学的な綱渡りの道は、中央アジアに位置する同国にとっては目新しいものでも驚くべきものでもない。同国は重要な開発プロジェクトでどちらか一方を選択しながらも、戦略的パートナーや投資家を確保するというバランス調整を常に行っている。今回の国民投票は可決されたものの、国民の間では疑問が残っており、この綱渡りは国内でも続いている。国民投票に先立って実施された世論調査によると、原子力発電所の建設を巡る懸念事項として、49.5%の国民が公衆衛生に影響が及ぶ可能性、42.9%が環境に悪影響が及ぶ可能性、22.8%が緊急事態への備えが十分かどうか、18.6%が放射性廃棄物処理、15.3%が建設に伴う地域的利益を挙げた。 原子力発電の導入は、カザフスタンの発展を国内外に示すことになる。原子力発電所を建設することで、同国は原子力産業の価値連鎖を向上させ、国内の経済的な需要を満たすほか、環境に優しい電源を得ることでクリーンエネルギー転換を実現することができる。国民投票によって、政府は「耳を傾ける国家」を実現した。 とはいえ、カザフスタンは、ロシア、中国、米国、欧州連合(EU)などの懸念を考慮しつつ、地政学的に多角的な外交を進める必要がある。たとえカザフスタンが健全な環境・エネルギー政策を推し進めようとしても、このバランス感覚がなければ、外交上、裏目に出る可能性もあるからだ。カザフスタン国民の承認と、原子炉建設への参加権を争う複数の外国企業を前に、原子力発電は中央アジアの近代化を進める上で重要な岐路に立っている。
Ariel Cohen