朝ドラ『虎に翼』34歳俳優の「日本映像史に残すべき名場面」。本作でもっとも慎ましく、美しい瞬間
『虎に翼』(NHK総合)で主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)が新潟にやってきてからというもの、判事・星航一(岡田将生)と何だかいい感じだ。 【画像】新潟で急展開した寅子と航一の関係 寅子の粘り強い開心術によって、航一は心を開く。すると第18週から第19週にかけて、航一が過去の秘密を明かす場面がひときわ美しい風景となった。 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、アーカイブに残すべきだと感じる雪景色について解説する。
音の響きからも表現される客観性
俳優の演技にとって発声は重要な構成要素である。発声の基礎がなってなければそもそも演技が成り立たない。そのため映像や演劇の学校で演技を学ぶと、発声を訓練するために声楽を受講することがよくある。 『虎に翼』で、最高裁判所初代長官の息子であり、新潟地方裁判所の判事・星航一を演じる岡田将生は、まさに発声のスペシャリストだと感じる。第14週第66回での初登場以来、どの場面でも見事にクリアな発声だが、第18週第88回冒頭が特別素晴らしかった。 判事たちの執務室。朝鮮人への差別意識が露呈する事件公判について、航一が検察側から新たな証拠が提出される旨を寅子に伝える。長めの台詞だが、ゆるやかな持続と驚異的な安定感の発声によって航一という人物のゆるがない客観性が、音の響きから表現されている。
好位置を見定める中音域
自席から寅子の席に向かってきちんとクリアに届かせ、一音も誤読の余地がないように配慮されている。岡田が演じる役名が航一なだけに、発声にブレがない好位置を見定めるかのような演技ではないかと思う。 しかもあの美声だ。自分が持つ美麗な音色を丁寧に響かせる。豊かな中音域の幅を最大限広げながら、各場面ごとに自由自在に少しずつ強弱をつけて音色自体の好位置も探る。 キャリアの転換点になった『昭和元禄落語心中』(NHK総合、2018年)の落語家役や映画『ドライブ・マイ・カー』(2021年)の人気俳優役、ちょっと抜けてるが雄弁な京言葉が魅力的だった『1秒先の彼』(2023年)など、近年、『虎に翼』に出演するまでに演じ込んできたすべての役柄が声楽的な魅力に満ちている。