恐ろしい”ロシア政府”からの逃亡を図った親子を”絶望”に陥れた「過酷すぎる道のり」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第48回 『濃い霧の中「あと少しだ」「走れ!」...ロシア政府から幼い娘とともに逃亡する反戦派ジャーナリストを待ち受ける国境越え「最大の難所」』より続く
迫る車のヘッドライト
わたしたちはトランクからリュックサックとスーツケースをつかんだ。そして走った。 「700メートルほど行けと言われたんだけど」 わたしはアントンに確認した。 「もう少しあるな」 突然わたしは深い穴に落ちた。何も見えないが、耕されたばかりの深い畝が前方にあるのがわかった。多分、つい最近トラクターがここを通り、大きな石を放ったらかしにしたのだ。何歩か進み、わたしたちは足を止めた。 「これ以上、歩けない」 アリーナが泣き言を言った。 移動するクルマのヘッドライトが近づいてくる。 「伏せろ。頭を下げて」 アントンが命令した。 「国境警備兵だ」 なぎ倒されたように地面に伏せた。身じろぎもせずに横たわり、近づいてくるライトをじっと見た。突然ライトは止まり、いま来たほうへ引き返していった。 「トラクターだわ」 わたしは言った。
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