生成AIによる偽動画、選挙前に日米で拡散…「欲まみれの落選必須議員」「トランプ票破棄」
[生成AI考]第4部 混乱の先に<1>
「FBI(連邦捜査局)はテロ攻撃が発生した可能性があると発表した。投票所に行かないように」 【写真】トランプ氏の不倫相手とされる元ポルノ女優
米大統領選の投票日前日の4日、米CBSの偽のニュース番組がSNS上で拡散した。事態を重くみたFBIは5日、「映像は偽物」と周知する声明を発表した。映像はロシアと関連のあるグループが生成AI(人工知能)を用いて作ったとみられ、即座に削除された。
10月末には激戦州ペンシルベニアで、選挙管理委員会の関係者を装った男が「トランプなんか、くそくらえだ」とつぶやきながら共和党のトランプ次期大統領に投じられた郵便投票用紙を次々と破る偽動画がSNS上で拡散した。
米大統領選を巡り、米欧メディアは「かつてない規模の偽情報や陰謀論がネット上に飛び交った。米国の敵対勢力が選挙干渉を強めた」などと振り返った。投票日が近づくにつれ、ロシアや中国などに関連するグループが偽画像や偽動画などを相次いで投稿し、選挙介入を強めたという。
米調査機関「民主主義を守る同盟」シニアフェローのブレット・シェイファ氏は、中露などの工作について「米国をさらに分断させ、混乱をもたらすのが狙いだ。ロシアは友好的なトランプ氏の支援を図った」と説明した。偽情報によって「米国内の分裂が深まり、暴動の種となれば、米政府は沈静化に注力せざるを得ず、国際情勢に目が向かなくなる」と指摘する。
生成AIの急速な技術向上が、大量の精巧な偽画像や偽動画を瞬時に作り出すことを可能にし、敵対候補をおとしめる真偽不明の情報が陣営や政党、支持者からSNSで無数に発信された。SNSを多用する人が自分と似た意見の人とばかりつながり、考え方が極端になる現象「エコーチェンバー」が広がり、分断を一層深めたと指摘される。
バイデン政権はAI規制の法整備を進めると打ち出したが、大統領選には間に合わなかった。全米20州でAIを規制する州法ができ、AIで作成した選挙関連の偽情報流布を禁じる州もあるが、効果は限定的だった。米市民団体「民主主義と技術のためのセンター(CDT)」シニア政策アナリストのティム・ハーパー氏は「偽情報拡散に関する連邦法を政府は早急に整備する必要がある」と求めた。