<ボクシング>長谷川が大阪城ホールに残した感動
チャンピオンのプレッシャーの凄さ
長谷川は、これで足が使えなくなる。だが、WBC世界バンタム級のベルトを10度守り、2階級を制覇した長谷川には、百戦錬磨の経験値があった。3回のゴングが鳴ると、インサイドからアッパーを軸に組み立て、“嫌な距離”への進入を防ぎ、ボディを攻めていく。カウンターのフックが当たり始めると、マルティネスの前進が止まった。 4回。コーナーから「集中!」「バランス!」と言う大きな声が飛ぶ。長谷川は、また左フックを被弾してよろめき、バッティングで左目の上をカットした。山下会長いわく、王者のパンチは異常に硬かったそうだ。それでも懸命にクリンチで、ゲームセットとなるリスクを減らしながら、徐々にダメージを回復させていく。長谷川は、5回、6回と、再び距離を作ることが、出来始めたが、王者は左の傷口を狙って右のストレートを打ちこんできた。7回。再びマルチネスが、前に出てくると、またロープを背負うことになる。長谷川は、ボクシング人生のすべてを賭けるかのように逃げずに打ち合った……そして……1分20秒、タオルが投げられた。 「チャンピオンは強い。あれだけのプレッシャーをかけられると、距離をとったボクシングをしようにも、できなかったのではないか」とは、元WBA世界Sフライ級王者のセレス小林氏。元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎も「(距離を作るボクシングを)理由があってやらなかったのか、やらせてもらえなかったのか」と見ていた。 6回までのスコアは2人がドローで1人は長谷川に付けていた。リングサイドには、泰子夫人が子供たちと一緒に座っていた。減量のきつい長谷川が少しでも何かを楽しんで食べれるようにと、食事メニューを工夫しながら、夫を支えてきた妻は、試合中に初めて「頑張れ!」と大声を出したという。 「何度も、もうあかん、もうあかんと、あきらめかけたんですが、お客さんが、『頑張れ!穂積!』と言ってくださるので、私も声を出しました。感動しました。最後の最後で本当に面白いボクシングを見せてくれました」