【南海トラフ地震を正しく知る①】8月の日向灘地震で「南海トラフ地震」の注意喚起がされたのはなぜか?
(白石 拓:作家・サイエンスライター) ■ 日向灘地震に地震学者がヒヤッとした理由 【写真】図1 南海トラフの想定震源域(左)とAB地点の断面図(右) 今年(2024年)8月8日、宮崎県沖の日向灘を震源とするマグニチュード7.1(以下、M7.1と表記)、最大震度6弱の大地震が発生しました。近年、大きな被害を伴った地震が相次いでおり、日本人を不安にさせていますが、日向灘地震がこれまで以上に国民の危機感を高めたのは、政府が南海トラフ地震情報として「注意」を発表したからでした。 南海トラフ地震または南海トラフ巨大地震と呼ばれているのは、近い将来に南海トラフで必ず起こると考えられている巨大地震のことです。注意情報が出されたのは、この南海トラフの西端あたりに日向灘地震の震源が位置していたためです。 気象庁は注意情報を発表する基準として、「南海トラフ地震の想定震源域およびその周辺でM7.0以上の地震が発生した場合」と定めており、今回それに合致したのでした。 過去、M7.0以上の地震が起こった後、7日以内にM8以上の巨大地震が発生した事例が複数あり、そのための注意喚起だったのです。ただし、その確率は数百回に1回程度です。巨大地震発生の可能性は時間の経過とともに低下するので、注意の呼びかけは8月15日に終了しました。
■ 巨大地震を起こすトラフと海溝 次にくるとされる巨大地震、南海トラフ地震の「南海トラフ」とは何ものなのでしょうか。トラフ(trough)とは、英語で「凹んだお盆」や「窪み」を意味する言葉で、地形学的には海底にできた細長い「溝」をいいます。日本語では「舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)」と表現されます。 トラフは、地球の表面をおおうプレートと呼ばれる厚さ数十kmの巨大な岩盤どうしの境界に形成されます。地球は十数枚のプレートでおおわれていると考えられており、それぞれのプレートは相対的に年に数cm程度動いています。 プレートには海洋プレートと大陸プレートがあり、海洋プレートのほうが重いため、両者の境界では海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいきます。このような場所を「沈み込み帯」といい、トラフは沈み込み帯なのです。 なお、トラフと同じ沈み込み帯地形に「海溝」があります。海溝とトラフの違いは、水深がおよそ6000m以上の深い溝を海溝と呼び、それより水深が浅い溝をトラフと呼んでいます。南海トラフが水深約4000mであるのに対して、日本海溝の深さは約8000mです(トラフには異なる成因のものもありますが、ここでは省略します)。