西武黄金期を築いた名将が「優勝慣れしたチームに再び火をつけた方法」
「ピッチャーが全部、ゾーンの四隅に投げたら完全試合できる。それをやられたら我々は拍手するしかない。四隅に来たらごめんなさい!でいい。でも、1打席に何球かは甘い球が来るんや。それなのに四隅の難しいボールに目付けして、甘い球を見逃している。これはプロとして失格、切腹もん。清原や秋山(幸二)は、難しいゾーンまで自分のストライクゾーンを広げている。難しいところに気を取られて、甘い球を見逃しているから、本来3割打てるのに2割5分やら2割6分まで落ちているんやぞ」 100打席で25本のヒットを打てば2割5分だが、30 本ヒットを打てば3割である。広野によれば、このヒット5本の差は、技術の違いではなく相手投手にどう対峙するかという戦術によるものだ。「打率を上げろ」ではなく、「あと5本を打つにはどうすればよいか」を広野は説いた。 「2球目の甘いボールをファウルして、3球目に難しいコースに手を出して凡退している。この2球目を仕留めなきゃいかんぞ。配球もある程度わかるだろう。150キロの球が来るのがわかれば、指2本短く持て。そしたら、プロで生き残れる」
● 純真な清原への独特な指導法と 優勝慣れしていたチームの熱のなさ 他にも、広野はその日の相手投手の「狙い球」「絞るコース」を打順の2回り目までに確定させ、円陣で選手に指示を出していたという。正確性を求め、ベンチの壁にコピー用紙を掲示し、打席が終わった選手に配球を書き込んでもらっていた。具体的な道筋を描いて見せたうえで、選手個々の特性にあわせて広野は接し方を考える。西武球団の宝である清原は、ことさらナイーブだった。 「清原は、自分を褒めてくれる人にはものすごく寄っていく性格で、厳しいことを言う人からは距離を取る。また、話し言葉に関しても繊細なところがあって『君、ダメ』みたいに標準語でキツくコーチに言われると拒絶してしまうきらいがあるんです。だから、僕は『今日のバッティングええやないか』と関西弁っぽい徳島訛りで褒めながら話す。彼は純真なんですよ」 このように広野は清原との関係を深め、指導を行った。そのおかげか清原の西武3年目は31本塁打を記録し、打率も2割8分6厘まで上昇。チーム打率も2割7分とリーグ1位。西武はリーグ4連覇を達成し、日本一にも輝いた。