「俺を誰だと思ってるんだ!」…年金月33万円・退職金2,000万円で平穏な老後を送るはずが、スーパーを荒らす〈カスハラ老人〉へと変貌。67歳・元経理部長の老後崩壊の発端となった「年金機構からの通知」【FPの助言】
“勝手にしろ、困るのはお前だぞ”…妻を突き放し、自宅を出ることに
妻の思いがけないひと言に、ミツルさんは固まることしかできません。「なんだ、どうした急に」。「もう、何年も前から決めていました。機会をうかがっていたんです」。 いつもの調子が出ずオドオドした様子のミツルさんとは裏腹に、イクコさんは毅然とした態度で続けます。 「たしかに、金銭的にはなに不自由ない生活をさせてもらいました。そのことには感謝しています。でも、ただそれだけでした。気難しいあなたの顔色をうかがいながらの暮らしは、もう疲れました。あなたから解放されたいです」。 子どものことで相談したいときも、更年期症状で苦しかったときも、まるであてにならなかった夫。イクコさんは、とっくに愛想をつかしていたのです。「時が来たら絶対に離婚して自由になろう」……それが、ここ数年の生きるモチベーションになっていました。 ようやくこれから“妻孝行”しようと思っていた矢先、妻から三行半を突きつけられたミツルさん。プライドがへし折られたように感じ、離婚に応じながらもこう吐き捨てました。「勝手にしろ、困るのはお前だぞ」。 大石家はもともと高収入世帯でしたが、会食やゴルフ、車などにかける支出も多かったため、資産はそれほど多くありません。そのため、退職金2,000万円と預金1,000万円と持ち家が財産分与の対象でした。ミツルさんの老齢年金は月26万円ほどあります。イクコさんは専業主婦期間が長かったため月7万円です。ミツルさんは最後の“恩情”のつもりで、自宅はイクコさんが住み続けられるようにしました。また、退職金の半分である1,000万円をイクコさんに渡すことに合意し、離婚が成立しました。
ある日、自宅に届いていた、日本年金機構からの「一通の封書」
自宅を元妻に明け渡したミツルさんは、近隣の賃貸マンションに移ることにしました。一人暮らしにはやや広めの2LDKで、家賃は14万円です。敷金、礼金、家具や家電の購入、引っ越し費用などの新生活の準備のため、預金を150万円取り崩しました。 財産分与したとはいえ、ミツルさんにはまだ月26万円の年金に加え約2,000万円の預金があります。ミツルさんには心の余裕がありました。 しかし、だんだんとその“余裕”がなくなっていきます。離婚から半年ほど経ったころ、日本年金機構から一通の封書が届きました。早速開封してみると、「標準報酬改定通知書」と書いてあります。 実は、元妻のイクコさんが年金の「3号分割」の申立てを行っていたようです。 年金の「3号分割」とは? 3号分割とは、離婚した夫婦の一方が国民年金の「第3号被保険者」である場合に、相手の合意なしに「年金の分割」を請求できる制度です。2008年4月1日以後の婚姻期間が対象となっており、分割割合は厚生年金の報酬比例部分の1/2です。なお、基礎年金部分は分割の対象外となります。 分割を請求できる期間は、離婚した翌日から2年以内です。また、分割された年金は自身の年金記録として扱われます。仮に再婚しても年金額は変動しません。 3号分割は合意が不要ですが、このほか、双方の合意が必要な年金分割の方法として「合意分割」があります。3号分割と合意分割の要件、およびそれぞれの違いは下記のとおりです。 大石夫婦の場合、対象となる婚姻期間は15年間です。イクコさんの3号分割の請求により、ミツルさんの厚生年金記録が再計算され、月額2.5万円がミツルさんからイクコさんの年金記録へ移ることに。その結果、ミツルさんの年金は月26万円から23.5万円に減額になってしまいました。
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