[山口二郎コラム]メディア革命と民主主義
今年、日本ではいくつかの重要な選挙が行われた。10月の衆議院選挙では、自民党、公明党の与党連合が大敗し、石破茂政権は少数与党という異例の形で継続した。2012年末の自民党の政権復帰以来、歴代の政権は国会審議を軽視し、数を頼んで問題のある政策を押し進めてきた。そのおごりが政治資金をめぐる不正を常態化させ、国民の厳しい批判を浴びることとなった。また、金融緩和を中心とする経済政策は問題の先送りに過ぎず、日本経済の停滞と人口減少、社会の衰弱は放置されたままである。これらの問題に対する国民の不満が選挙で表明された形である。選挙は民意を政治に伝える最強の手段であることを思い知らされた。 他方で、ユーチューブやXなどのソーシャルメディア(SNS)が民主政治にとっての脅威になるかもしれないことが、地方選挙で明らかになった。7月の東京都知事選挙では、広島県の小都市の市長をしていた石丸伸二氏がSNSを駆使した新しい運動手法を展開し、200万票近い得票を挙げた。また、11月の兵庫県知事選挙では、県議会で不信任されて失職した斎藤元彦氏が予想外の勝利を得た。 特に問題になるのは、兵庫県知事選挙である。斎藤氏の知事在職中のパワーハラスメントや公私混同について県庁の幹部職員が内部告発を行ったが、斎藤氏はこれを事実無根と断じ、告発者を特定した。この告発者はその直後に自殺した。県議会による不信任にはこのような根拠が存在する。事態の真相を明らかにするとともに、告発者の名誉を回復することが兵庫県政を正常化するために不可欠なのだが、斎藤氏は潔白を訴えて知事選挙に立候補した。 斎藤氏を支持する人々はSNSを駆使して選挙キャンペーンを行った。その中では、パワハラの嫌疑は既得権を守ろうとする県議会による陰謀だとか、内部告発をした元職員は不倫をしていたなど、虚偽の情報があふれかえった。こうした情報が流布するうちに信憑性が高まってきて、斎藤氏が被害者のようなイメージができ、選挙戦の終盤に急速に支持が広がった。 NHKが知事選の際に行った出口調査では、投票する際に何を最も参考にしたかという問いに対する答えは、「SNSや動画サイト」が30%、テレビと新聞がそれぞれ24%となった。また、SNSや動画サイトと答えた人の70%以上が斎藤氏に投票した。今や、SNSは伝統的なマスメディアと同じくらいの影響力を持っているといえるだろう。テレビと新聞は事実の報道という使命を持ち、裏付けを取ること、ファクトチェックを行うことを欠かさない。しかし、SNSにあふれる情報にはデマや虚偽、あるいは競争相手に対する誹謗中傷が含まれている。 SNSを重視する人の中には、自分が注目する情報が事実かどうかに注意を払わない人も存在する。そうした人々はテレビや新聞という伝統的メディアに対する不満や反感を持っている場合も多く、事実を検証し、虚偽を暴露する情報そのものが上から目線の権力的なものだと反発する。さらに、今回の選挙ではユーチューブで悪名高いインフルエンサーが斎藤氏を支援する活動を展開し、対立候補に対する誹謗中傷やデマをまき散らした。ユーチューブでは、真偽はともかく、閲覧回数が多くなることが発信者の利益につながるので、多数の人が注目する刺激的な表現を使って噓をつくという誘惑が働く。そのようなからくりをアテンション・エコノミーとよぶ。選挙という民主主義にとって最も重要な機会が、確信犯的嘘つきによるアテンション・エコノミーの追求のために利用されたのが今回の兵庫県知事選挙であった。政治とSNSの関係が新しい段階に入ったということができる。 対策は簡単ではない。民主主義は、人々が事実を共有し、それぞれの信念に沿って最も好ましい候補者を選ぶという前提の上に成り立っている。事実など存在しないという虚無主義や、自分が信じる事実こそが事実だとする狂信主義が広がると、民主主義は崩壊する。とりあえず、虚偽や誹謗中傷と戦いながら、議論の仕方に関する新しいルールを模索していくしかない。 山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr) 韓国語記事入力:2024-12-02 08:00 https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1170169.html