東京都知事選挙“告示前の演説”はどこからが「事前運動」にあたる? 選挙実務に精通した弁護士が解説
7月7日(日)投開票の東京都知事選挙の立候補者らが「告示前」に行った街頭演説などの内容について、公職選挙法(公選法)が禁じる「事前運動」に該当するのではないかと話題になっている。他方で、これまでも告示前の「事実上の選挙戦」は当然のように許容されてきている。実際の法律の規定や判例、選挙実務はどうなっているのか。 【X投稿】選挙運動期間についての東京都選挙管理委員会の投稿
公職選挙法は「事前運動」をどう規制しているか
公職選挙法は「事前運動」についてどのように規定しているのか。 公職選挙法129条は、「選挙運動は、各選挙につき、(中略)届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない」と規定している。つまり、事前運動とは、立候補の届出の前に行う選挙運動をさす。 そもそもなぜ、公職選挙法は事前運動を禁止しているのか。市議会議員の経歴があり選挙実務に詳しい三葛敦志弁護士に聞いた。 三葛弁護士:「まず、公職選挙法が選挙運動の期間を区切っているのはなぜかを考える必要があります。 選挙運動は多岐にわたるので、選挙運動期間が長いほど、『お金を持っている人』に有利になります。 お金がない人でもそれなりに選挙ができるようにするには、選挙運動の期間に制限を加えることが合理的です。 したがって、事前運動の禁止は、候補者の実質的平等を確保し、公正な選挙を実現するために、必要やむを得ない制約だということになります」
「選挙運動」の意義についての「判例の3要件」
では、「選挙運動」とはなにか。実は、公選法はその内容について定めておらず、最高裁の判例によって以下の基準が示されている(最高裁昭和38年10月22日決定)。 「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接的に必要かつ有利な行為」 つまり、以下の3要件をすべてみたせば「選挙運動」に該当する。 1. 特定の選挙に関するものであること 2. 特定の候補者を当選させる目的であること 3. 投票を得る、または得させるために直接・間接に必要かつ有利な行為であること 1と2についてはわかりやすいが、「3. 投票を得る、または得させるために直接・間接に必要かつ有利な行為であること」の解釈については、問題がある。 三葛弁護士:「正直にいって、専門家からみても非常に悩ましい規定です。広く解釈すると、ありとあらゆる活動が含まれかねません。 もちろん、先述した法の趣旨からすれば、広く解釈して『みんな一律にアウト』という考え方はあり得るでしょう。 しかし、それでは、法的観点からも、選挙実務の観点からも、困難な問題が生じます」