【第3回】サイトウサトシのタイヤノハナシ ~トレッドデザインについて深掘りしてみた~
氷雪路での決め手はサイプ
次に縦溝+横溝パターンを試してみました。 まず感じたのは、グリップがずいぶん少なくなったということ。走り出すとかなり明瞭に、絶対的なグリップ性能の低下が感じられました。 けれどもハンドルの手応えは、切り出したところから舵角にして100度過ぎまではっきり感じられるし、タイヤが氷の路面に引っかかる感触が増し、クルマを曲げるところから旋回まで、さらには滑り出した時のコントロール性まで、タイヤが滑っていても氷の路面にエッジが引っかかってグリップを作り出している感覚があり、格段にコントロール性がよくなっているのです。グリップ性能は低いのですが、氷上を自由自在に走ることができる感覚がありました。 最後にスタッドレスタイヤを試してみました。 驚くべきことに、絶対的なグリップ性能はスリックよりも良いのではないかと感じました。 もちろん気のせいではありません。 しかもコントロールしやすいと感じた縦横溝のタイヤよりも断然コントロール性が良くなっているのです。滑り出しが穏やかで、タイヤが滑り出してもちょっとスピードを落とすとスーッとグリップが戻ってくるのです。 ポイントはスタッドレスタイヤに細かく刻まれたサイプ(≒極細溝)にあります。太溝で作られたトレッドブロックを、サイプによってさらに小さく切り刻むことで、柔軟性のあるスタッドレスタイヤのゴムが、グリップの小さな氷の路面でも適度に変形し、グリップ性能を高める働きをするわけです。 剛性が高いブロックは、滑り出しが唐突になりがちです。逆に、剛性が低いと滑り出しが穏やかになります。 もちろんこれは、氷の路面や圧雪路との剛性バランスが取れているとき、ということになります。むやみに剛性を低めれば、反応が鈍くなり操作に対する正確性は低くなります。 ……というわけで、縦溝横溝の構成比、あるいは斜め溝の角度、サイプの数や刻まれている角度から、設計者がどんな性能を意図しているのか、なんとなく類推することができるわけです。もちろん実際に走らせたタイヤの印象と違うこともあるわけで、そうなると、その違いはどこから来ているのかを、また探りたくなってしまうのです。 ね、ご飯3杯くらい軽くイケちゃうでしょ?
斎藤 聡(執筆/撮影)