【EURO2024総括コラム】「トレンドがはっきり表われた」今後の代表チームに問われるテーマは、「チームとして能動的かつ積極的な戦術を確立して戦えるかどうか」
2)攻撃だけでなく守備でも能動性が求められている
2)攻撃だけでなく守備でも能動性が求められている 今大会を通じて、結果はともかくサッカーの内容という点で大きな注目と評価を集めたチームを挙げるとすれば、強豪国ではスペインに加えてドイツ、中堅国ではスイス、トルコ、オーストリアということになるだろう。 これらの国々に共通するのは、攻撃の局面においてシステマチックな組織的連携によるビルドアップや崩しのメカニズムを持っている点だ。敵陣に進出した後は多くの人数を前線に送り込んで攻め切ることはもちろん、守備の局面においても、相手にボールを持たせて受けに回るのではなく、自ら前に出ていくアグレッシブなプレッシングによって、敵陣でボールを奪回しようとする能動的かつ積極的な姿勢を、攻撃と同じように貫いた。 スペインとドイツはともかく、中堅国に関してはトルコのアルダ・ギュレルを除けば際立ったタレントを擁しているわけではない。個のクオリティーで違いを作り出すのではなく、全員が連動性を持って組織的に振る舞いながら、攻守両局面で能動的かつ積極的な姿勢を貫くことで、格上の相手すらも困難に陥れた。 例えばスイスは、秩序の取れたマンツーマンのハイプレスによってイタリアやイングランドの攻撃を封じ込め、攻めてはウイングバックやセンターバックまでが敵陣深くに進出して局地的な数的優位を作り出すアグレッシブで勇敢なサッカーで、強い印象を残した。 オーストリアも、敵GKにまでプレッシャーをかけるハイプレス、そしてボールを失った瞬間から一気に前に出て即時奪回を狙うゲーゲンプレッシング、常に前方のスペースにボールをつなごうとする縦指向の強い組織的攻撃で、フランス、オランダを尻目にグループDを首位で勝ち上がっている。 中堅国でも、セルビアやポーランドは、受動的なサッカーに終始。ドゥシャン・ヴラホビッチ、ロベルト・レバンドフスキという強力なアタッカーに質の高いボールを供給することができず、1勝も挙げられないままグループ最下位での敗退を余儀なくされている。 3)中堅国のレベルアップと欧州サッカー全体の平準化 前回大会から出場国が「24」に増え、UEFA全加盟国「55」のうち半分近くが本大会に参加できるようになったことで、ジョージア、アルバニア、スロバキアといった小国にも出場のチャンスが巡ってきた。 ワールドカップでは出場国が増えるに伴って全体の平均レベルが下がり、どの相手にも歯が立たずに敗退する国が出るなど、必ずしもポジティブな側面だけではないが、EUROに関しては、そうしたレベルダウンの兆候は見られなかった。 3戦全敗で敗退した国はゼロ。各グループ3位の6チーム中、成績上位の4チームがベスト16に進出できるレギュレーションもあって、どのグループでも最終節まで緊迫した状況が続き、勝ち上がりを決めた国が大胆なターンオーバーを行なうような、いわゆる消化試合は極めて少なかった。 クロアチア、セルビア、ポーランドといった、欧州クラブシーンのトップレベルで活躍するスター選手を擁したチームがグループステージで敗退する一方、ジョージア、オーストリア、スロバキア、スロベニアという中堅国がベスト16に勝ち上がっている。 優勝したスペインを筆頭に、ドイツ、イングランド、フランス、ポルトガル、オランダといった強豪国が、今なお中堅国以下とは明らかに1ランク違う強さを誇っていることは確かだ。 しかし、その一方でイタリアやベルギーのような伝統国が、結果だけでなく内容的にも説得力を欠いた戦いぶりしか見せられずにベスト16で敗退。かたやスイス、トルコがベスト8に勝ち上がるなど、中堅国の底上げとそれに伴う全体のレベル平準化という近年の欧州サッカーのトレンドが、このEUROにはっきりと表われていた。 それはスウェーデン、アイルランド、ウェールズ、ギリシャといったW杯やEUROにしばしば顔を見せる中堅国が、今大会では予選敗退に終わったという事実にも表われている。今後は、トップレベルのタレントを輩出できるかどうかだけでなく、チームとして能動的かつ積極的な戦術を確立して戦えるかどうかが、強豪国から中堅国以下まで、全ての代表チームに問われるテーマになっていくのかもしれない。 文●片野道郎
【関連記事】
- スペインが“圧倒的な強さ”で頂点に立てた理由とは――「代表レベルでも、攻撃をタレント力だけに頼る“堅実路線”では不十分の時代が来た」【EURO2024コラム】
- オランダ戦でイングランドのサウスゲイト監督が得た大きな成功体験とは? 決勝の見どころは「哲学、スタイルが明確なスペイン相手に、どう振る舞うか」【EURO2024コラム】
- スペインとフランスの“決定的な違い”は「戦術的な攻略手段を持っていたかどうか」【EURO2024コラム】
- スペイン対ドイツ戦で、イエローカードが17枚も飛び交った理由「ペドリに対するクロースのファウルに警告を出さなかった判断が尾を引いた。それ以上に大きかったのは――」【EURO2024コラム】
- ドイツを追い詰めイタリアを一蹴したスイス「躍進の秘密は“流動性”」、準々決勝のイングランド戦で注目すべきポイントは…【EURO2024コラム】