「とにかく静かにしてほしい」追い詰められた80歳の夫は85歳妻の首に手をかけた
50代の会社役員の女性は、自身も認知症の母を介護しているだけに、胸中は複雑だったという。公判が進むにつれて事件を単なる介護殺人ととらえて良いのか、悩むようになったと明かした。「誰のための裁判なのかを考えた時に、やっぱり奥さまのための裁判だと思うようになりました。彼女が生きたかったとしたら、かわいそうな介護疲れの末の心中事件として片付けてしまって良いものなのか。今でも心残りです」 今後、社会の中で更生を目指す被告にどう生きてほしいか。女性はこう答えた。「いろいろと制限はあるのかもしれないけれど、ほぼ普通の生活ができて、奥さまが受けられなかった支援を受けて生きていく。刑務所に行かないからこそ、もっともっと長い時間を奥さまに対して考えてもらいたいです」 判決後、弁護側、検察側双方とも控訴せず、刑は確定した。 裁判員制度が始まって15年。18歳以上の有権者から無作為に選ばれた裁判員が評議に加わる裁判は、全国の地裁で毎年新たに1000件近く開かれている。有罪か無罪か。実刑か執行猶予か。犯した罪と向き合うためにどのような時間を過ごさせるべきか。今日もどこかの裁判所で、被告の人生を左右する判断に市民が向き合っている。