「とにかく静かにしてほしい」追い詰められた80歳の夫は85歳妻の首に手をかけた
検察側は、被告は介護で著しく疲弊していた訳でもなく、妻の言動に腹を立てた身勝手な犯行だと主張した。「どんな理由があっても人を殺害することは許されない」と懲役7年を求刑した。 弁護側は、人を頼るのが苦手な被告が考えられる手段はきわめて少なかったと強調する。「静かになってほしいとの一心で犯行に及んだ」と執行猶予付き判決にするべきだと訴えた。裁判の結論は3人の裁判官と6人の裁判員にゆだねられた。 ▽「余生において弔い続けるべき」悩み抜いた結論 3日後、被告に言い渡されたのは、殺人の法定刑の下限(懲役5年)を下回る懲役3年、執行猶予5年の判決だった。 判決文を読み上げた裁判長はまず「妻は突然長年連れ添った夫の手にかけられ、その無念さは察するに余りある」と犯行を非難した。 一方で、次のように、夫婦の生活実態が判断に影響したとも述べた。「置かれていた状況や事件に至る経緯を考慮すると、刑務所に収容することのみが刑事責任を問う唯一の手段とまで見ることはできない。その余生において反省を深め、弔い続けるべきだ」
裁判長は判決を読み上げた後、被告に声をかけた。「結果が重いことは何度も強調したい。私たちは十分に考え、悩み抜いた中でこのような結論になりました」。判決を聞き終えた被告はゆっくりとうなずき、証言台を立って弁護士に頭を下げた。 ▽悩んだ裁判員。被告にかける言葉は 判決後、希望した裁判員は記者会見に出席する。彼らは判決を決めるまでに何を考えたのか。 「判決が出れば気持ちが晴れやかになると思っていました。でも、今もモヤモヤした気持ちです」。40代の会社員の女性は、そう切り出した。「老老介護という社会問題として考えるべきか、それとも自分の感情に従うべきか。被告にも奥さんにも感情移入してしまい、すごく悩みました」と結論に至るまでの葛藤を打ち明けた。 30代の男性会社員は「執行猶予か実刑か、中間がない中で意見を統合していく難しさを感じました」と量刑を決める難しさを吐露した。「人を一人殺したというのは非常に罪深いこと。余生をもって反省してほしい」と判決の一部を引用して語った。