「とにかく静かにしてほしい」追い詰められた80歳の夫は85歳妻の首に手をかけた
我に返った時には、妻は動かなくなっていた。被告は隣のベッドに腰かけて酒を飲みながら、横たわる妻の顔を見つめていた。「自分だけが生きているのはありえない」。台所から牛刀を持ってきて自分に突き刺そうとした。しかし、踏ん切りはつかなかった。 次の日の午後、被告と連絡がつかないことを心配した妹が110番通報する。警察官が自宅に訪れた。「妻は奥で寝ています」。そう言って寝室に案内した警察官に「もう死んでいます、私が首を絞めました」と告げ、その場で逮捕された。 事件に至る経緯を聞き終えた検察官は、被告に「なぜ殺したのか」と動機を追及する。被告はこう答えた。 「妻は元々理路整然としていて、グループがあればリーダーをやるような人。それが自分のやっていることが分からなくなるようになったのが、すごくかわいそうに感じてしまいました」 検察官は「介護にストレスがあったのでは」と続けた。ここまで言葉に詰まることも多かった被告は、この質問には、はっきりこう答えた。
「考えたこともないです。当たり前だと思っていました。夫婦だから」 ▽裁判員は問いかけた。結婚してよかったと思いますか― 裁判では裁判員が被告に直接質問できる時間がある。裁判員は次のように問いかけた。 ―奥さんはあなたのことを愛してくれていたと思いますか? 「妻は最初結婚する気はなくて、病気をした時に私がお見舞いにいったら『お礼で結婚してあげる』なんて言っていたくらいなんです。でもここ2、3年は出かけるときに『ハグして』とか言い出して。しっかりしているように見えて本当は甘えたかったのかなと。最初より、最後の方が好いてくれていたと思います」 ―結婚して良かったと思いますか 「最後さえ間違えなきゃ良かったんだと思います。妻はやっぱりまだ生きたかったんだと思う。それを奪ってしまったことは申し訳ないと思っています」 夫は涙ぐんでいた。 最後に、検察側、弁護側それぞれが裁判でのやりとりを踏まえた最終意見を述べた。