「パリ・オペラ座『白鳥の湖』IMAX」バレエ鑑賞歴20年の記者がドはまり〝最高の体験〟「オペラ座の舞台上にいる気分」
パク・セウンの超絶技巧にくぎ付け
伝説的ダンサー、ヌレエフ(1938~93年)は83年、パリ・オペラ座の舞踊芸術監督に就任し、オペラ座の黄金時代を築いた。自らの「白鳥の湖」を創ったのは84年のこと。ジークフリートと家庭教師ボルフガングとの関係に焦点を当て、〝恋に落ちた男女の悲劇〟という単純なストーリーにとどまらない、深い人間ドラマを生み出した。 王子らの存在感が大きいとはいえ、やはり物語の主人公はオデット、そして彼女にそっくりなオディールだ。この2役を演じるのは韓国出身のエトワール、パク・セウン。アジア人として初めてエトワールになった彼女は、豊かな表現力と繊細な踊りで日本にもファンが多い。悲劇に見舞われたオデットは気品にあふれ、ジークフリートを惑わすオディールは自信たっぷり。見事に演じ分けている。オディールの代名詞ともいえる32回転のグランフェッテなど超絶技巧も難なくこなし、確かな技術に目がくぎ付けだった。 また、ジークフリート役のポール・マルクは並み居る男性エトワールの中でも抜群のテクニックの持ち主。オデットに永遠の愛を誓うものの、ロットバルトが仕掛けたわなに落ちていく王子の弱さを見事に体現した。
チュチュのかすかな揺れを感じた
2024年2月、パリ・オペラ座バレエの来日公演でパクとマルクの「白鳥の湖」を見た時も、二人が紡ぎ出す白鳥の世界に魅了された。だが、今作ではその時には見落としていた新たな発見がいくつもあった。例えば、悪魔に捕らわれた悲哀を漂わせるパクのわずかなつま先の動き、二人が交わす視線に漂う愛と絶望。カメラがクローズアップで捉えた細やかな動きや表情は、映像作品だからこそ気付くことができたと言えるだろう。 さらに、白鳥たちの群舞を真上から映した場面にも魅了された。多くのバレエ作品を映像でも見てきたし、その中には「白鳥の湖」の群舞を上から映すシーンもあった。だが、IMAX認証カメラは、白鳥たちのチュチュのかすかな揺れを鮮明に映しだしていた。それはまるで白鳥の羽が震えているようで、「これが真の没入感か」と納得した。 上映期間はたったの7日間。時間が許せば毎日でも通いたい――。そう思えるほど、最高のバレエ体験だった。
毎日新聞記者 倉田陶子