展望台から約70メートル下はいきなり濃い色の海! どことなくフレンチ・カントリーの趣がある勝浦灯台
現在、日本に約3,300基ある灯台。船の安全を守るための航路標識としての役割を果たすのみならず、明治以降の日本の近代化を見守り続けてきた象徴的な存在でもありました。 【写真】この記事の写真を見る(13枚) 建築技術、歴史、そして人との関わりはまさに文化遺産と言えるもの。灯台が今なお美しく残る場所には、その土地ならではの歴史と文化が息づいています。 そんな知的発見に満ちた灯台を巡る旅、今回は2003年に『星々の舟』で第129回直木三十五賞を受賞した村山由佳さんが千葉県の勝浦灯台を訪れました。
千葉県南房総の灯台巡り
さて、二日目である。 当初、灯台を巡る旅の提案をいただいた時点では、千葉県南房総の灯台三基を二泊三日で、という計画だった。ところが、筆の遅い私がそれだけの日数を確保できなかったせいで、行程は一泊二日の間にぎゅぎゅっと押し込められることとなった。幸い天候には恵まれたけれども、番組ロケ隊の皆さんにまで無理を強いてしまって本当に申し訳なかった。 ここでちょっとだけ言い訳をさせてもらうと、ムラヤマ、筆そのものは遅いわけではないんである。書き出してしまえばけっこう速い。気分が乗るとぐいぐい進む。ただ、いざ取りかかるまでに時間がかかって、何かが降りてこないと書き出せない。つまり、正しくは〈筆が遅い〉というより〈仕事が遅い〉だけなのだ。 ――ぜんぜん言い訳になっていないじゃないか。 ともあれ。一日目の午前中に安房鴨川(あわかもがわ)の海岸をそぞろ歩くシーンを撮り、お昼をはさんで野島埼(のじまさき)灯台を訪ね、てっぺんまで上ってまた下りてきた私たちは、このあと周辺の景色や海に沈む夕陽を押さえてから撤収するというロケ隊と別れ、翌日に備えて勝浦(かつうら)方面へと移動することとなった。 私と、文藝春秋「オール讀物」の編集長と、同じく文春所属のカメラマン氏、の三人。東京からずっと、編集長がハンドルを握ってくれている。 千葉方面に土地勘のない読者のために軽く説明しておくと、野島埼灯台は房総半島の最南端にあり、そこから太平洋に面した東側の海岸線を北上してゆけば、千倉(ちくら)、鴨川、勝浦、御宿(おんじゅく)、いすみ……と辿るかたちになる。今は亡き私の両親が暮らしていた家は千倉にあり、私自身は十年以上鴨川に住んでいた時期があり、その間は勝浦にもしょっちゅう遊びに行ったので、このあたりの道は熟知しているといってよかった。 その晩のホテルは御宿に取っていた。海岸線を走る道路は快適だけれど、移動距離は長い。編集長の趣味で車内にはクラシック音楽と甲斐バンドが流れていて、後部座席でうつらうつらするうち、はっと目を開ければ日はとっぷり暮れていた。 車は、なぜか御宿の町なかをぐるぐる巡っているようだ。