首都直下地震なら被害額「国家予算9年分」も…能登、阪神で潰えた道路網、水道も対策途上
■南海トラフ巨大地震は「1800兆円近く」も
地震による道路や橋などのインフラ被害は、長期的に見るほど深刻になる。土木学会は令和6年3月、首都直下地震による約20年間の経済的被害が1001兆円となる試算を発表した。建物被害に加え、交通網寸断による生産停止なども含むが、国家予算の約9年分に相当する額だ。
学会の試算では、道路網の整備や電柱の地中化、橋梁(きょうりょう)の耐震化に21兆円以上を投じれば、被害が369兆円分減り、復興年数も5年以上短縮できるとする。だが、事前対策を現状のペースで進める場合、完了には55~65年かかるという。
試算した学会の小委員長で京都大大学院教授の藤井聡は「対策をとればとるほど復興費用は縮減される」と指摘する。南海トラフ巨大地震の経済被害も、近く政府が公表する被害想定を基に試算を出す予定だが、「1800兆円近くになりかねない」と警告する。実に国家予算の約16年分だ。
国難に等しい地震に備えるため、藤井は今後10~15年で対策を完了させるよう提言する。「道路機能を維持できれば、すぐ救援に入れるし物資も運べる。早く物流も回復できれば暮らしも取り戻せる」と強調する。
■水道耐震化も途上、「社会受容浸透を」
災害後の生活再建に、道路とともに欠かせないのが、電気やガスといった生活インフラ(ライフライン)だろう。中でも水道は復旧に時間がかかり、阪神大震災では全戸通水に3カ月を要した。能登半島地震では一部を除く「ほぼ復旧」に5カ月もかかり、特に中山間地域での水道耐震化の遅れが浮き彫りとなった。
政府は、導水管や送水管などの基幹管路について、震度6強レベルに耐える耐震適合率を令和7年度末に全国平均54%にする目標を掲げる。だが、4年度時点で42・3%にとどまり、目標達成のハードルは高い。
神戸大大学院教授(ライフライン地震工学)の鍬田(くわた)泰子(48)は、都市部を中心に基幹管路の対策が進んでいるとしつつ、「水道もネットワークである以上、どこかに被害があれば停止する。一体的に耐震化しないと機能しない」と限界を指摘する。