Y字路はなぜ生まれるのか 抜群の眺望、あの「M」が輝く角地も 物語る「まちの記憶」
京都や東京でまち歩きのガイドを務める京都大大学院生が著書「Y字路はなぜ生まれるのか?」を出版した。道路が二股に分かれる全国約100カ所を写真で紹介し、独特の景観が生まれる過程を分析。京大キャンパスがある京都市左京区吉田の密集地や、巨大なY字路にファッションビル「SHIBUYA109」がそびえる東京・渋谷の歴史をひもといた。著者いわく、Y字路には「都市の『人間味』が現れる」という。 【写真】左右で高低差が違う絶妙なY字路の景観はこちら 執筆したのは京大で地理学を専攻する重永瞬さん(28)=上京区。大学入学後、迷路のようなキャンパス一帯の街路網に魅了された。まち歩き団体「まいまい京都」でガイドとなり、5年前に始めた「Y字路天国・吉田」と題するツアーが人気を博し、東京でも活動を始めた。 著書の巻頭では、「とっておき」の12カ所の写真を並べた。二つの急坂に挟まれた東京都豊島区のスポットは眺望が抜群で、大阪市北区ではYの角地にマクドナルドの「M」のマークがこうこうと輝く。 Y字路の「顔」を印象づける角地の利用方法については、京都府内の例を多数挙げて紹介した。広告看板や道しるべ、らせん階段、郵便ポスト、ごみ捨て場などを列挙し、Yの角度や分岐した左右の道路の高低差によって趣が大きく異なることを指摘している。 Y字路の形成過程にも考察を広げ、異なる目的地へ向かう道の結節点に生じる「街道系」や、既存の道路網を無視して新道を通すことが要因の「開発系」など4類型を提示した。 その上で、碁盤の目から離れた京大周辺は、街道が斜めに走ったり、蛇行する川が地下水路化して道路になったりしたことなどから鋭角交差が多いと解説。 また、川の付け替えや新道の開通で生まれたY字路に闇市が立ち、後に大型商業施設に変わっていった東京・渋谷の都市開発の変遷も浮かび上がらせている。 雑誌や新聞でY字路特集が相次ぎ、ブーム到来を予感させる中での出版。重永さんは「合理的な都市計画と対極にあるY字路。そこには、まちの記憶が埋め込まれている。身近な風景から大きな物語を読み解く楽しさを伝えたい」と話す。 晶文社刊、208ページ。2090円(税込み)。