もはや「貿易立国ですらない」日本、サービス収支に見る円高実現を阻む「ある要因」
日本はもはや「貿易立国ではない」と言えるワケ
リーマンショックが起きた2008年の「貿易・サービス収支」は1.9兆円と2007年の9.8兆円から大幅に減少した。このうち「貿易」の輸入は前年比9.1%増の7.2兆円だったのに対して、輸出は「需要が蒸発した」と形容された世界的な景気後退が響いて、製造業で生産停止が相次ぎ、前年比3.1%減の7.8兆円となった(図表3)。 これが「貿易・サービス収支」に大きく影響し、黒字が7.9兆円も激減したのだ。その後、2010年には復調の兆しも見られたが、2011年にマイナスに転じてから5年連続で赤字が続いた。ちなみに、旧統計に遡って、「貿易収支」が赤字になったのは1963年以来48年ぶりのことだ(国際収支統計と定義が異なる貿易統計で見ると1980年以来31年ぶりの赤字)。 東日本大震災によるサプライチェーンの混乱で、輸出が再びマイナスになったことに加えて、原子力発電所の稼働停止に伴う火力発電所向け原油輸入の急増などが影響したと見られる。それ以来「貿易・サービス収支」は赤字基調が続いていて現在に至っている。 このように俯瞰(ふかん)すると、リーマンショック以降の日本は、もはや貿易立国として外貨を獲得してきた従来型の構造にはないと言える。つまり、貿易面からは、輸出で稼いだドルを売って円を買う力学(円高圧力)よりも、輸入の支払いのため円を売ってドルを買う力学(円安圧力)が働く構造に変貌しているのだ。
サービス収支に見られる「大きな構造変化」とは
東日本大震災からの復興が進む中、「貿易収支」は2016年から2021年まで6年連続で黒字を維持した。とはいえ、資源が乏しい日本の貿易収支は、輸入に依存している資源価格の動向次第という脆弱性があり、国際情勢が緊迫した2022年以降は再び赤字基調だ。 それでは「貿易・サービス収支」のもう1つの柱である「サービス収支」の動向はどう推移してきたのだろうか。サービス収支は、大きく「輸送」「旅行」「その他サービス」で構成されるが、全体としては現統計で遡れる1996年以降一貫して赤字が続いている(図表4)。 ただし、サービス収支の項目別内訳を見ると、この間に見られた日本経済の大きな構造変化が映し出されている。ポイントは「旅行」と「その他サービス」だ。1990年代の旅行収支は大幅な赤字であったが、次第に赤字幅が縮小し、2010年代半ばからは黒字に転じている。