斎藤知事の「“選挙後の疑惑”をテレビは当初大きく取り上げなかった」兵庫県知事選に「テレビ不信」をもたらした“報道の穴”
「テレビ不信」をもたらした報道の穴
公職選挙法違反の疑いへとフェーズが変わってからも、横並びの報道姿勢が目立ったが、テレビは実際に候補者や選挙カーが街頭を回る選挙期間中になると、より公平・中立な取扱いを慎重にしようという意識が強くなる。ニュース番組でも各候補や政党の主張をほぼ同じ時間だけ伝える定型的なニュースしか放送しなくなるのが通例だ。当選の可能性が高い候補も、ほぼ間違いなく落選しそうな泡沫候補も同じように時間を割くため、メリハリがなくなってしまう。選挙期間前にはさんざん詳しく報道していた問題も同様だ。 なぜ斎藤氏が失職したのか、失職の背景になったパワハラやおねだりの疑惑、内部告発者への処分などについても選挙が始まるとストップして、詳しい経緯が伝えられなくなる。選挙ニュースでは情勢や選挙活動で各候補の主張だけを伝える。結果的に視聴者からすれば、たくさんの情報から投票する候補を選びたい一番肝心な時に、詳しい情報を流さず、重要な事実をわざと隠そうとしているのでは? そんな「テレビ不信」につながっているのではないか。
そうした「穴」があるなら、より信頼性が高いテレビや新聞などが工夫してその「穴」を埋めていけばいいのではないか。それは今後、可能なのだろうか。だが、今のところ、「総論」で問題意識を伝えながらも、具体的な「各論」に踏み込もうとするテレビ番組はない。
テレビは次の選挙をどう報じるのか?
次の選挙でのテレビの報道のあり方。このヒントになるようなスタジオ討論が11月19日放送の「めざまし8」で交わされた。キャスターの谷原章介氏と元放送作家の鈴木おさむ氏、元NHK記者の立岩陽一郎氏の3人の会話だ。 「SNSと選挙について、今回は考える良いきっかけになった。SNSがうまい人と下手な人と、(既存)メディアって、テレビって選挙期間中は何もできないなかでSNSだと自由に発信できるし、そういうものがうまい人と使わない人の差がすごく出てしまう」(鈴木おさむ氏) 立岩陽一郎氏は元NHKの敏腕記者で骨太の調査報道にも携わってきた。特に選挙のファクトチェックでは、どれだけ労力がかかるか身をもって知り尽くしている人物だ。 「テレビや新聞が敗北したという評価をする人もいる。(略)もっとテレビや新聞が選挙の時にやれる方法があるわけです。もっとやれ、もっとやってほしい。SNSに関して懸念を示すと何が起きるか? 政府が介入してきますよ。そうするとさらに言論空間がきわめて歪なものになる可能性がある。(略)自由な言論空間を守るということはやはり大事だということは、ちょっとみなさん意識してほしい」(立岩陽一郎氏) 立岩氏はSNSの影響の拡大は政府の介入につながりかねないという強い危惧を示す。「自由な言論空間」を守るべきだという主張だ。その上で「もっとやれ」と積極性を促している。 筆者は鈴木おさむ氏と立岩陽一郎氏の議論をとても興味深く聞いた。SNSの影響の拡大に驚きを示しながらも安易な規制を戒め、これを育てる方向に育てようとする。テレビに 「もっとやれ」「もっと踏み込んでほしい」と鼓舞していた。