スポーツ育成大国に見るスタンダードとゴールデンエイジ。専門家の見解は?「勝敗を気にするのは大人だけ」
ビデオ分析・データ活用が4大スポーツのスタンダードに
――北米を拠点にされている若林さんが、4大スポーツの発展を見てこられた中で、ここ数年で見られる印象的な変化やトレンドはありますか? 若林:競技レベルでは、ビデオ分析とデータ活用がどの競技でもスタンダードになりましたし、スタッフに求められる必須スキルになりました。私が関わっているユースのレベルでは年間を通してゴールやアシスト等の基本的なスタッツをつけるレベルですが、例えば大学のチームになると、本格的なデータやビデオの活用スキルが必須になります。求人では、アシスタントコーチとかスタッフの募集の要件として、「データ分析ソフトやビデオ分析ソフトを使ったことがある」という条件が必ず入っているので、私自身もスタッツやビデオの分析はできるようになりました。そのスキルがあるのとないのとでは、名前を広められるかどうか、仕事の量にも大きな違いが出てしまいますから。 ――データや映像を使ったロジカルな指導ができないと、指導者として評価されないのですね。 若林:そうです。日本でも野球やサッカーはデータ分析の技術が進んでいますけど、マイナースポーツでも積極的に取り入れないと、差は開いていくと思います。私の専門であるアイスホッケーでも、日本のライバル国はそういうデータやビデオ分析技術を活用していますから。日本は高校の大会どころかトップレベルの大学リーグですら公式の個人スタッツが出ていないので、そのスタンダードを満たしているとは言えないですし、他に革新的なことをやっていなければ、世界に追いつける可能性がなくなってしまうのではないかという危機感があります。
育成年代の指導者にはライセンスが必要
――ビデオ分析やデータ活用の技術を導入するための資金面がハードルになっている面もあるのでしょうか? 若林:ある程度のお金はかかりますが、プラットフォームはすでに十分に整備されていて、日本でもデータ分析やビデオ分析のソフトは他の競技で使われているので、日本のアイスホッケー界もそれを活用すればいいと思います。ただ、そのスキルを持ったコーチを育てる仕組みがなければ、人材も育たないですから、そこは課題だと思います。 ――英国のアイスホッケー界では、現役プレーヤーから指導者やメンターへの転身をサポートするプログラムがはじまるそうですね。日本のサッカー界では指導者の最高資格であるS級ライセンス取得のハードルが高いのが現実です。指導者資格についてはどのように考えていますか? 若林:元選手が指導者になるのは自然のなりゆきだと思いますし、競技の発展にもつながるのでものすごく重要なことだと思います。ただ、元選手だからといって教え方や子どもの扱い方を知っているとは限らないので、子どもを扱う育成年代の指導力を担保する上では、ライセンス制は必要だと思います。そのライセンスが質の高い指導に対して対価を支払う理由になるし、万が一めちゃくちゃなことをやった時にはクビにできるからです。手弁当の指導だと、例えば子どもを殴ることがあった時にも、その指導者をかばう口実になってしまうんです。 一方で、教える対象が大学生以上の年代なら、ライセンスの有無は重要ではないと思います。実際、アメリカのアイスホッケーでは、大学やプロのコーチはライセンスは必要ありません。高レベルのライセンスを持っていても、結果が出なければすぐにクビになるだけですから、指導の質を担保するのは過去と現在の実績のみです。厳しい世界ですが、プロにおいてはライセンス制は基本的に必要ないと思います。ただ、ライセンス制は元プロ選手ではない指導者にも高いレベルで活躍できる道を開き「指導のプロを育てる」という側面もあるので、実際の指導力に応じてライセンス制を柔軟に活用すればいいと思います。 <了>