スポーツ育成大国に見るスタンダードとゴールデンエイジ。専門家の見解は?「勝敗を気にするのは大人だけ」
ゴールデンエイジに必要な刺激「プレーの幅を広げて選手寿命を伸ばす」
――運動能力や技術の発達に重要なゴールデンエイジと言われる9歳から12歳は、純粋にスポーツを楽しむことを優先したほうがいいのでしょうか。 若林:そうです。スポーツを楽しむことと、より楽しむために必要なスキルを習得することが重要です。その時期の勝ち負けが将来に影響することはほぼないですから。その年代の活躍と、プロになれるかどうかの相関関係はほとんどないことがわかっています。実際、小学生年代トップの野球選手が集うアメリカのリトルリーグワールドシリーズは、80年以上の歴史で六十数名しかメジャーリーガーを生み出していません。その時期に才能は決まらないということです。だからこそ、より多くの子どもたちが、自分に合ったレベルで勝ったり負けたりしながら成長できるリーグ戦主体の競技構造に移行するのは大切なことなのです。 ――なるほど。若林さんは、若いうちに複数ポジションを経験しておくことの重要性も発信されていますよね。 若林:小中学校のうちに複数のポジションを経験することは、とても大事だと考えています。そうすることで総合的な身体能力とスキルが高まり、ゲームを理解する能力が高くなるからです。また、複数ポジションができることは、後にトライアウトや選抜で競争率の高いポジションを争う際に大きなメリットになります。例えば、アイスホッケーでフォワードとディフェンスもできる選手がいたら、ディフェンスにケガが出た時に代わることができるので、フォワードしかできない選手よりも有利になるし、プレーの幅を広げて寿命を伸ばす可能性も高くなりますから。 ただ、洋の東西を問わず、親御さんの中には一つのポジションをやらせたがる方が多くいます。「うちの子は不器用なのでまずはフォワードだけをやらせたい」とか、「守りのポジションは試合を観ていてあまり面白くないからやらせたくない」と(苦笑)。
才能が可視化される年齢とは?
――アメリカのアイスホッケーでは、ゴールデンエイジの期間はどのような育成方針が主流なのですか? 若林:8U(8歳以下)では土日に集まって、2日間で4試合から5試合、親睦試合をするのですが、基本的には記録はつけないのが公式のルールになっています。優勝が決まる大会ではないですし、試合数が多いので、みんなが試合に出られるんです。9歳からは町や地域のリーグ戦と並行して、連休の週末を利用した大会が始まり、忙しくなります。この大会も、必ず予選リーグと決勝トーナメントがあり各チーム3~4試合が保証されます。 ――子どもたちはどのぐらいの年齢から競うことを意識し始めるのですか? 若林:例えば、アメリカの野球は高校生までは公式の全国大会がなく、州大会までしかありません。アイスホッケーも全米大会は14U(13-14歳)からです。以前は全米選抜キャンプを14歳からやっていたんですが、その後の傾向を調査したところ、14歳で選ばれた子の75パーセントが、17歳の時には選抜に帰ってきていないことがわかったんです。その子たちが早熟だっただけという可能性もありますし、燃え尽きてしまった子もいるかもしれません。それで、全国キャンプの意義が問われることになり、最終的に14歳の全米選抜はなくなったんです。 ――どのぐらいの年齢からプロの道を模索したり、才能を判断するのが北米スポーツのスタンダードになっているのでしょうか。 若林:競技スポーツでトップレベルに行けるかどうかは、「15、16歳くらいからわかり始める」というのが、専門家やプロのスカウトの基本的な見解です。もちろん、競技によっていろいろな特性があって、フィギュアスケートなどはもっと前にピークが訪れると言われますが、球技においてはサッカーのリオネル・メッシのように「100年に一人の才能」と言われるような一部の選手を除いて、そんなに早く子どもの才能が決まることはありません。