ザックJの守備崩壊はなぜ起きたのか
後半8分に同じくエルナンデスに喫した先制点も、クロスを上げた選手に対する酒井の対応があまりに甘かった。DF栗原勇蔵(横浜F・マリノス)も背後のエリアに入り込んできたエルナンデスに対して無警戒で、フリーの状態でヘディングシュートを許してしまった。 前回南アフリカ大会では開幕直前になって阿部勇樹(現浦和レッズ)を中盤の底、いわゆるアンカーの位置に置き、守備を安定させたことが結果的にベスト16進出につながった。再び攻撃陣を削り、4-3-3の守備的な戦い方にシフトするべきなのか。 水沼氏は「今から取り組むにはリスクが大きい」と否定する。 「攻撃的なタレントを揃えた今のチームの方向性にははまらないし、アンカーを置くフォーメーションにすれば本田や香川の動きにも歪みが生じる。1失点目の場面では、栗原はニアのゾーンを消していたはずだけど、ゾーンを消しても人についていなければマークにはならない。選手たちは異口同音に『ディテールにこだわる』と言っているけど、実際には何も改善されていない。強国になるためには、そこの部分を世界基準にしないと。現状では絶対にどこかに甘えがある。口で言うだけじゃなくてプレーでしっかり表すことが、本田がメキシコ戦後に言及した『DFの個の能力』の部分の成長につながっていくと思う」 確かにそうだろう。 この4年の進化と課題は世界に通じる攻撃力にあったはずなのだから。メキシコ戦で、さらに不可解なのは、後半32分のDF長友佑都(インテル)の負傷退場に伴い、「3‐4‐3」をあっさりとあきらめたザッケローニ監督の決断だ。3人目の交代選手として長友の代わりに投入されたMF中村憲剛(川崎フロンターレ)は、ザックジャパンで何度も務めてきたトップ下ではなく、「4‐2‐3‐1」の「3」の右という不慣れなポジションに配置された。 これを迷走采配と呼ばずして何と表現すればいいのか。不退転の決意で「3‐4‐3」を貫くならば長友に代えてDF酒井高徳(シュツットガルト)を投入すべきだし、「3‐4‐3」が機能していないと自らの采配ミスを認めたのならば、右サイドにはパッサーの中村ではなく、ドリブルと俊敏性とで相手をかき乱すことができるMF乾貴士(フランクフルト)が適任だった。 選手たちも違和感を覚えながらプレーしていたのだろう。中村投入からしばらくして、本田圭佑(CSKAモスクワ)をトップ下からワントップ、岡崎慎司(シュツットガルト)をワントップから本来の右サイド、中村をトップ下に配置転換すると遅まきながら連動性が生まれ、後半41分には岡崎がネットを揺らしている。いずれにしても、試合中にここまでバタバタしては体力と気力を余計に浪費するだけだ。 サッカーにおける監督の仕事は、約半分がキックオフ前のチームマネジメントと先発メンバー11人の決定を持って終わる。その意味では、ブラジル代表との初戦で完膚なきまでに叩きのめされて自信を失いかけたチームを、長谷部との個人面談を通じて「攻撃的なサッカーで世界を驚かせたい」というメッセージを全員に伝えることで蘇らせ、イタリア代表をあと一歩まで追い詰めさせたザッケローニ監督のマネジメント術は評価に値する。