ザックJの守備崩壊はなぜ起きたのか
しかし、残り半分の仕事である選手交代に対しては首を傾げざるを得ない。公式戦では3枠しかない交代のカードには、指揮官のメッセージが込められている。しかし、メキシコ戦で投入された内田、吉田、中村の3人からは、残念ながら「攻めろ」「勝つ」といったメッセージは伝わってこなかった。 イタリア戦でも同様のケースが見られた。3対3の同点に追いつき、中2日で臨んでいたイタリアの選手たちの足がパタッと止まった状況で、ザッケローニ監督は前田に代えてFWハーフナー・マイク(フィテッセ)を投入した。 前線から労を惜しむことなくプレスをかけ、守備でも貢献していた前田と比較して、ハーフナーは絶対的な運動量に欠ける。ボールも収まらない。194センチの高さを生かすポジショニングの妙もない。この選択がいかにイタリアを楽にしたことか。たらればの話になるが、ここでも乾が投入されていたら状況はまた変わったものになっていた可能性が大きい。 ザッケローニ監督はメキシコ戦後、イタリア戦からの疲労回復が十分でなかったことを敗因のひとつとして挙げた。しかし、メキシコもブラジル戦から中2日で臨んでいる以上は、まったく説得力を持たない。ザッケローニ監督が「人格者」であることは認める。しかし、選手交代のカードを持って状況を変えられない、的外れに終わる、あるいは遅きに失するなど、冷徹な「勝負師」となりえないマイナス面が図らずもクローズアップされてしまった。 流れを変えられる力を持ったサブの選手がベンチにいない、という指摘は確かに的を射ている。これも早い段階から先発メンバーだけでなく招集メンバーまでもがほぼ固定化され、時間の経過とともにチーム内から競争原理が失われてしまったツケと見るべきだ。 アジアの戦いから世界を相手にしたブラジルの地での3試合。来年のW杯をザッケローニ監督に任せて大丈夫なのか、崩壊した守備を立て直せるのか、過去最高位を更新するベスト8以上を狙えるのかという議論の土壌が生まれることが、皮肉にも今回のコンフェデレーションズカップにおける最大の収穫となるのではないか。 (文責・藤江直人/論スポ/写真・平野敬久)