亀田大毅のIBF世界王者の意義
試合の評価への賛否
亀田家は一様に海外のボクシング映像を見るのが大好きだが大毅は興味がない。対戦相手のDVD映像もほとんど見ない。そういうボクシングとの距離感も、ボクシングの秀才と天才に挟まれた劣等生ゆえの苦しさからくるものだったのか。 オヤジも、大毅にだけは容赦がない。「やる気がない」「手を抜いている」と思うとガツンと鉄拳を交えて本気で叱る。兄や弟には、繊細なマッチメイクが組まれても、大毅だけは、問題となった内藤大助戦を筆頭にガチに強豪とのマッチメイクを組まれた。 不器用ゆえのタフさ……大毅は麦のように踏まれて逞しくなっていった。 いつも家族を思い、スタッフへの感謝の念を忘れない。リング上でも「周囲のサポートのおかげです」と発言した。試合が終わると必ずスタッフにお礼のメールを送る。食通の大毅は、評判のグルメ店を巡るのがオフの楽しみだが、必ず家族のためにお土産を持って帰る。そういえば、その昔、インタビューに用意したシュークリームが大量に余ったとき「にいちゃんと和毅に持って帰りたい」と、彼は、お土産に包んだ。 さて、この試合の評価である。 WBC世界フライ級王者、八重樫東(大橋ジム)は、高い評価を与えた。 「感動しました。勇気を持って勝負にいく勝ちにいく気持ちが見えました。そういう気持ちを作ってリングに上がって終盤前に出たのでしょう。僕は、彼が3人の兄弟の中で自分のことが一番わかっているボクサーだと思うんですよ」 その一方で、あるボクサーからは、こんな言葉を聞かされた。 「倒すためにどう崩すか、どう組み立てるかというボクシングではなく、下がって、離れて、コンタクトを避け、カウンターだけを狙っておくというボクシング。その展開が最後まで成立してしまうような世界戦というのはありえないでしょう。途中、打ちあったけれど、それも両者共にガードも下がって無防備なレベルの低い殴り合いです。大毅も大毅なら相手も相手。ビッグ・ダルチニアンという超一流ボクサーと対戦経験のあるボクサーだと聞いていたのですが、あれでIBFの元世界王者というならば、IBFのレベルが低いとしか思えない」 序盤に大毅が仕掛けたボクシングは「距離、リズム、タイミング」のボクシングである。素人目にはつまらないが、玄人目では面白い、そういう高いレベルのボクシングの世界は存在する。読みあい、化かしあい……。近代ボクシングの最先端の技術を駆使し、白刃で対峙するような緊張の世界だ。では、この日の大毅のステップワークと、それを詰めきれなかったゲレーロに、そういう緊張の世界があったか?と問われれば、答えはノーだ。