亀田大毅のIBF世界王者の意義
敵の良さを殺した戦術
「今日は徹底して作戦を守れた」 リング上の亀田大毅は、そう言って涙を流した。 すぐさま、ギネス認定された世界初の3兄弟同時世界チャンピオン。 最後に滑り込んだ亀田家の劣等生を自称する次男坊は感涙を溢れさせた。 作戦とは、ゲレーロからのプレッシャーを回避するため、ステップワークを使って離れて常に動くこと。ゲレーロが入ってくれば、カウンターを合わせてクリンチ、サウスポースタイルにスイッチされると、ノーモーションの右を当ててから、体を密着させて反撃を封じ込める。「距離、リズム、タイミング」のボクシングを極めた元WBCスーパーフライ級王者、徳山昌守が、対サウスポー対策に使っていた戦法である。 “接触”というリスクを負わずに密着戦には付き合わない。 ロープを背負う状況にしないことを徹底した。 敵の良さを殺しにいく戦術である。 終盤に、ゲレーロの足が止まったと見るや、大毅は、その根気良く続けた戦術を捨てて果敢に打ち合った。もう相手のパンチ力も感じなかったのだろう。ガードも下がっていた。それを見切ったように足を止めて勝負を決めに行った。相手の元IBF王者は、KO負けが、そのキャリアにないタフなボクサーである。10ラウンドには、クリーンヒットが何発かあったが、決定打とはならない。まるでタッチゲームを見せられているようだった怠惰な世界戦は、ようやくボクシングらしくなっていたが、最終ラウンドは、また大毅は慎重に足を使った。判定は3-0。途中、亀田にローブローの減点が、2つあったにもかかわらず、一人は、8ポイント差をつけていた。 不器用なボクサーである。 長男・興毅が持つクレバーさや、三男・和毅が持つ天才的なセンスもない。それがずっと彼にはコンプレックスになっていた。 「兄ちゃんに和毅……。特に和毅に下から追い上げられるのがしんどい」 そんな本音を聞いたことがある。 試合後のリング上での熱唱。玄人肌のマンガ……。ボクシング以外に秀でた大毅の一芸は、そういうコンプレックスの裏返しのように思えていた。