「AIより人間がつくった作品のほうがいい」という価値観は変化するのか。AI研究者・今井翔太に聞く
凄まじいスピードで発展を続けるAI。クリエイティブの領域でもさまざまなかたちで利用が広がっている。 【画像】AI研究者・今井翔太 今回はAIについて考える連載企画の一環として、AI研究者の今井翔太にインタビュー。「AIを使いこなすには、まずAIを使わない『素の実力』を身につけないと意味がない」と話す今井に、AIと共存していく未来や、AIがカルチャーの関わりや考えかたなどについて、話を聞いた。
ポケモンのようなパートナーに? 進化するAIのこれから
─5月に発表されたChat GPT-4oは大きな話題になりました。今井さんが特に注目した部分を教えていただきたいです。 今井:まず一つは音声、テキスト、画像すべてを処理できること。もう一つが、それを極めて高速に処理できるというところですね。 いままでの生成AIでは、音声を処理できるAIでも音声をいったんテキストに直して入力と出力を行ない、音声合成エンジンで出力するような手間を取っていました。GPT-4oでは、音声を物理学的な波形データで入力し、音声の形で出力できます。従来のようにテキストにすると失われてしまっていた人間の感情や、誰が喋っているかの情報が残るので、同じ言葉でも「怒っている」「怒っていない」という判別や、たくさん人がいる状況で誰が喋っているのかの判別ができる。非常に大きい変化だと思います。 ─GPT-4oの出現によってよりAIの導入が進むと予想される業界や職業、今井さんが注目している活用事例があれば教えてください。 今井:一番に導入が進むのはコールセンターではないかと思います。カスタマーサービスへのGPT利用はすでに行なわれていて、リストラが多く発生したニュースも、2023年の時点で起きていました。ただ、従来のGPTのようにいちいち返事に5秒、30秒と時間がかかるようだと電話はまともに処理できないですし、音声もすべて機械音声で微妙でした。 GPT-4oでは電話の対応もかなり柔軟にできるということで、いままでのカスタマーサービスでは難しかったリアルタイムでの電話応対が完全に置き換えられると思います。 今井:これはまだ可能性の話ですが、感情表現ができるようになったことで「人間の本格的なパートナー」としてのAIのかたちも考えられると思います。 僕はもともとゲーマーでして、『ポケモン』の日本代表決定戦や世界大会に出場していた人間なんです。だから『ポケモン』や『ロックマンエグゼ』シリーズなんかも非常に好きなのですが、それらに登場するキャラクターやガジェット、あるいはドラえもん、アトムといったフィクションに登場するような、人間に寄り添う人間以外の知的存在が誕生する可能性が開かれたと思います。「パーソナルAI」とも呼べるような存在ですね。 ─例えば『ポケモン』に登場するピカチュウにもそれぞれ性格の違いがありますが、「パーソナルAI」では性格の差異なども表現できるのでしょうか? 今井:一般的な大企業が目指しているかどうかはわかりませんが、僕個人としては目指しています。じつは、しばらくしたら起業しようと思っているところで、まさにそういったAIのパーソナライゼーションへの挑戦も視野に入れているんです。 先ほど例に挙げたような、個人に特有の知的パートナーをゲームやフィクションなどの分野で生み出したり描いたりしてきた文化的な中心は日本にあると思っているので、そういう形態でのAI活用が日本から生まれるといいなと思います。