「ラグビー日本代表史上初のベスト8」に貢献した藤井雄一郎監督の「まるで双六のような人生」
日本を勝利に導いた決断
日本中が熱狂した日本大会のさなかにも、重大な決断に関わっている。 強豪アイルランド代表との大一番を前に、ジョセフは主将のリーチマイケルを先発から外すかどうかを迷っていた。怪我で本調子でないのは明らかだが、精神的支柱とあり控えに回った時の周りへの影響が心配だったようだ。 背中を押したのが盟友だった。 練習会場にしていた東京の秩父宮ラグビー場から宿に戻る道中、「ここまで来たら、もう『ONE TEAM』も何もあったものじゃない。大事なことは、勝つことだ」と進言した。 果たして当日、リザーブスタートという結果に奮起したリーチは前半途中から出て大活躍。19―12。会場が静岡のエコパスタジアムだったことから、この白星は「シズオカショック」と謳われた。 続く23年のフランス大会前が近づくと、藤井は知人を介して治療機器を導入。有名プロ野球選手が重宝しているというそのツールで、怪我で登録が危ぶまれたメンバーを出場へこぎつけた。 ウイルス禍によるテストマッチ減で選手層拡大に苦労しながらも、上位国を倒すために万策を尽くした。 以前、自らのタスクについて、冗談交じりに表したことがある。 「トラブル処理や」 自身にとっていまのところ最後のワールドカップを予選プール2勝2敗で終えると、新たな戦いの場を東海地区に求めた。
藤井監督とブルーレヴス
2023年秋から率いる静岡ブルーレヴズは、1984年に正式創部のヤマハ発動機ジュビロを前身とする。 ヤマハはリーマンショックの影響で一時的に強化規模を縮小も、2011年度に現日本ラグビーフットボール協会副会長の清宮克幸氏を監督に招いた。レギュラーメンバーに出身の大学でレギュラーに定着しきれなかった選手を並べながら、2014年度には史上初の日本選手権制覇を果たした。 他がまねのできない強みを作り、曖昧さのない指示系統のもと各自の役割を徹底させた結果だ。特に、攻防の起点のスクラムが際立っていた。 ブルーレヴズは、そのジュビロが親会社から独立した形のプロクラブだ。トップリーグがリーグワンへ新装開店するタイミングで生まれ、グラウンド内にかつてのよさを残しながらも事業面を発展させた。 今春までは元日本代表の五郎丸歩氏がクラブリレーションオフィサーとして、主催試合の会場に「働く乗り物」や自衛隊のヘリ、LDHのパフォーマーを招いたことでも話題を集めた。 補強のみに頼らない革新的な藤井は、このチームで監督をするのに適任かもしれなかった。