ノルドストリーム“損傷”で浮かび上がる欧州天然ガス「未曾有の危機」
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今年の冬、欧州の市民と経済は極めて厳しいエネルギー情勢に直面する恐れが高まっている。主力ガスパイプライン、ノルドストリーム1に原因不明の損傷が発生し、今後の供給を期待できなくなったことから、欧州連合(EU)の一次エネルギー全体で24%を占める重要なエネルギー源である 天然ガス の価格が未曽有の水準に高騰する可能性がある。最悪の場合には、欲しくても天然ガスが手に入らない(物理的不足)状況が発生するかもしれない。天然ガス価格の暴騰は、その他のエネルギー価格高騰にも波及する恐れがあり、その状況下、欧州経済は深刻な景気後退に落ち込む可能性もある。 もともと、欧州のエネルギー市場は、 ウクライナ危機 の発生後、エネルギー価格の高騰と市場不安定化に苦しめられ続けてきた。その最大の原因は、欧州全体として、またドイツなどの主要消費国の各々において、エネルギー供給面でロシアに大きく依存してきたこと、そのロシアのエネルギー供給の支障や途絶を巡る不安が現実の問題となってきたことの2つである。欧州全体(英国やトルコなども含む)で見ると、2021年時点で、ロシアからの輸入は全輸入において、石油で32%、ガス(パイプラインガスと液化天然ガス=LNGの合計)で54%、石炭で48%となっており、いずれもロシアが最大の輸入源となっている。 それでもEUは、ロシアに対する経済制裁を強化する中、「返り血」を浴びることを覚悟で、エネルギー分野への制裁を実施してきた。既に、石炭と石油については、禁輸方針が示され、両分野での「脱ロシア」への取組みが進められている。しかし、石油と石炭でいち早く脱ロシア方針が打ち出されたのは、この2つの市場では代替供給源確保が可能であるとの判断があったからである。欧州全体で輸入の半分以上を依存するガスについては、世界市場に供給余力が無く、脱ロシアが極めて難しい。EUは「REPowerEU」計画で、2030年を目途に(さらなる前倒しを図りつつ)、ロシア産のガスからの脱却を進めようとしているが、すぐさま脱ロシアを図ることは現実には難しい、と見られてきた。それだけ、欧州のガスにおけるロシア依存は抜き差しならない、深刻な問題だったのである。
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小山堅