びっくりするほど「甘い」いなりずし ごはんが「お漬物」になる? 未来につなげたい津軽の食の〝宝〟
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手や、北東北の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】びっくりするほど「甘い」いなりずし、珍しいごはんのお漬物「すしこ」
「さくら色」の秘密は…
青森の旅の途中、一風変わった「いなりずし」に出会った。 目にする「おいなりさん」はやはり「おあげさん」でくるまれているものの、お米の部分が白くはなく、「さくら色」なのだ。 試しに買ってほおばってみると、驚くほど「甘い」。 さくらの名所が多い青森県だけに、春限定の商品なのかと思って売り子さんに尋ねてみると、決してそうではないという。 この地方のおいなりさんは昔から「さくら色」であり、びっくりするほど「甘い」のだという。 「この地方ではかつて砂糖が貴重品で『甘いもの』がごちそうでした。だからハレの日に出されるおいなりさんも、ここでは甘くなったのではないでしょうか」 津軽鉄道・津軽五所川原駅前でカフェを営む渋谷尚子さん(65)はそう言いながら、実際に津軽のおいなりさんを作ってくれた。 炊いたもち米に酢とたくさんの砂糖を加える。 もち米がさくら色に見えるのは、細かく刻んだ紅ショウガを混ぜているからだ。 さくら色のもち米を甘く煮込んだ油揚げで包み込み、最後に小さなクルミを乗せる。 「甘さは各家庭によって違います。うちではよく運動会などで食べていました」
若い世代にも食べてほしい、津軽の「宝」
おいなりさんだけではない。この地方ではお漬物も赤い。 津軽地方に伝わる「すしこ」。 蒸したもち米に赤シソと浅漬けにしたキュウリやキャベツをまぶし、数日間発酵させて作る、全国的にも珍しい「ごはんのお漬物」だ。 津軽地方では古くから、塩分補給などの目的で、田植えの時期などによく農家で食されていたという。 製造元の食品会社「つがる女性加工」では、女性スタッフ6人が製造にあたる。 JAの女性加工部会として設立。 傷がついて出荷できない野菜や米をどうにか生かせないかと考え、地域の特産として販売している。 専務の菊地千穂さん(52)は願う。 「若い世代にこそ食べてほしい。すしこは津軽地方の『宝』。コンビニのおにぎりも便利だけれど、郷土食を次の世代へつなげていってもらいたい」 さくら色に染まる青森の春。 さくらの下で食べる、さくら色のおいなりさんと赤い漬物。 その柔らかな色は津軽出身の人々のどんな記憶と結びついているのだろう。 (2022年4月、2023年7月取材) <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>