日本発売、肥満症治療薬「ウゴービ」の「効果と注意点」「そもそも手に入るのか」
2月22日、デンマークのノボ・ノルディスクが開発した肥満症治療薬セマグルチド(商品名「ウゴービ」)が、我が国でも処方できるようになった。毎週1回皮下注射で投与される。本稿ではウゴービについて解説したい。
BMI27以上、もしくは35以上が対象
まずは対象だ。ボディ・マス・インデックス(BMI)という肥満の指数が27以上(身長170センチで78キロ)で、高血圧、高脂血症、糖尿病のうち2つ以上を合併しているものか、あるいは、BMIが35以上(身長170センチで101キロ)で高血圧、高脂血症、糖尿病の何れかを合併している患者である。十分な食事療法、運動療法を行っても減量できなかった人に限られる。 ウゴービの減量効果は顕著だ。2021年3月に米国の『ニューイングランド医学誌(NEJM)』に掲載された第三相臨床試験では、ウゴービとプラセボを投与したところ、ウゴービ投与群では投与開始から68週の時点で体重が14.9%も減っていた。プラセボ群の体重減少は2.4%だから効果は明らかだ。 ウゴービのメリットは「継続」が比較的容易であることだ。肥満をはじめ生活習慣病の治療の基本は運動と食事である。ただ、これは継続が難しい。 2019年4月、米国の研究チームは、セマグルチドなどと比べると弱いが、体重減少効果が証明されている「メトホルミン」という経口薬と食事・運動療法の効果を比較した臨床試験の15年間のフォローアップの結果を『米国内科学会誌』に発表した。この試験ではメトホルミン群の22%が体重減少を維持していたが、食事・運動療法群では5.9%だった。多くが途中で挫折していた。 ノボ・ノルディスク社によるウゴービの開発成功は快挙といっていい。昨年12月14日、米国の『サイエンス』誌は“2023 Breakthrough of the Year”の中で紹介している。 ウゴービは、もともとは糖尿病治療薬だ。使用者の体重が減少したことから、肥満症治療薬として開発が始まった。臨床経験が先行した薬剤だが、最近になって作用機序についても解明が進んでいる。今年1月には、カナダの研究者たちが、脳に作用して、炎症反応を抑制することが食欲を低下させるという研究結果を米国の『セル・メタボリズム』誌に発表している。 肥満症治療薬の開発には、ノボ・ノルディスク社を追いかけて、複数の製薬企業が参入している。研究は日進月歩だ。例えば、昨年7月、米国のイーライ・リリー社は、皮下注射薬のチルゼパチド(商品名「マンジャロ」)を投与した肥満症患者の体重が26%減少したという研究成果を発表した。ウゴービを遙かに凌ぐ効果である。 ノボ・ノルディスク社も「差別化」に懸命だ。昨年5月、セマグルチドの経口剤(リベルサス)を用いた臨床試験で、体重減少率が15.1%であったと報告した。これは注射剤であるウゴービと遜色ない成績である。経口剤で、この程度の減量が可能であれば、多少効果は落ちようが、皮下注射でなく、経口剤を選択する患者が多いだろう。 さらに、昨年11月、『NEJM』誌に発表されたウゴービの臨床研究の結果は、世界に衝撃を与えた。ウゴービを投与された患者は体重を減らすだけでなく、心筋梗塞や脳卒中の発症を20%低下させたというのだ。こうなれば、単なる肥満症治療薬でなく、健康寿命を延長させる薬剤ということになる。