深夜の東京に現れる南国野菜の移動販売車はどこから? 東南アジア人夫婦が日本で農園を営むまで
深夜0時過ぎの東京・上野。多くの飲食店が閉まる中、繁華街の一角に続々と在日タイ人や中国人ら外国人が集まる野菜の移動販売車がある。ワンボックスカーの中に作った棚には、パクチーや唐辛子、バジルなどが並び、爽やかな香りが周囲いっぱいに広がる。 【写真】総重量9キロのグリーンカレーに挑戦者はいるか 東京・新橋の「タイ屋台」に登場 18年
十数人の外国人が車の前で列を作り、新鮮な野菜を求めて順番を待つ。表情は嬉しそうだ。 野菜を売っているのはラオス人のセインティサック・シーサアットさん(67)。農業が盛んな茨城県坂東市で、タイ人の夫スカノンチャナパ・サタポンさん(67)とタイの野菜を育て、夜になると東京を中心に千葉、埼玉など首都圏を回って野菜を届けている。 お客さんからタイ語で「メー(お母さん)」と親しまれるシーサアットさん。常連にはタイ料理店の従業員や近くに住むタイ人が多いという。 人に歴史あり。夫婦が母国から遠く離れた日本で現地の野菜を作って同胞に届けるようになるまでには、さまざまな経緯があった。(共同通信=森内みのり) ▽茨城県坂東市で生産 夫婦が野菜を育てるのは、坂東市の利根川沿いに広がる「サタポン農園」。記者が取材した2024年春には見渡す限り一面にパクチーが元気よく育っていた。唐辛子や空心菜、ホーリーバジル、レモングラスなど約20種類を育てている。
サタポンさんは、畑の大部分を占めるパクチーについて「葉が大きく柔らかで香りも格別」と誇らしげに語る。早朝から畑やビニールハウスを回り、水やりをしながら野菜の育ち具合を確認するのが日課だ。 手塩にかけた野菜が立派に育つのが楽しみだといい「新鮮でおいしい野菜を届けられた時が一番幸せ」と話す。 夫婦には日々の楽しみがある。農園で採れた野菜をふんだんに使って料理を作り、農園のアルバイトも含めたみんなで食卓を囲むランチの時間だ。 夫婦そろって料理好きで、毎日どちらかが腕を振るう。食卓には色とりどりのタイ料理が並ぶ。 ある日のランチでは、日本でも人気の「ガパオライス」を作った。タイの家庭でよく使われるすり鉢で唐辛子やニンニクをつぶし、ニンニクを揚げた香ばしい油でホーリーバジルや豚肉を炒めてご飯に乗せた料理だ。記者が訪れた時は、部屋中が食欲をそそるタイ米の甘い香りに包まれていた。 シーサアットさんは「母国のラオスでも家族みんなで賑やかに食べるのが好きだった」と懐かしむ。 ▽2人が来日した経緯