「クルド人は真面目でよく頑張る」 トラブル頻発でも、解体業者が「クルド人作業員を好んで使う」知られざる理由
87カ国の人々が難民申請
日本が難民条約に加盟したのは1981年。ベトナム戦争で旧南ベトナム政権が崩壊し、「ボートピープル」と呼ばれるインドネシア難民が急増したためだ。正式な難民の受け入れが始まり、難民認定に関する入管法の改正もことある毎に実施されてきた。法務省によると現在、日本への難民認定申請者の国籍は87カ国にも及ぶ。 2008年には生活が困窮している難民認定申請者に対する保護費予算が枯渇し、民間団体による支援活動に委ねられた。ところが2010年ごろから難民認定申請者が日本国内で就労することが認められたため、支援負担が軽減。申請者の生活も安定するようになった。 難民認定の申請を行った者は、正規の在留資格を得ていないことから不法滞在者となる。だが「審査中」というお墨付きにより「仮放免者」という法的立場となって認定審査期間中に限り、居住や就労などの権利が認められている。これはクルド人だけに限った制度ではなく、日本で難民認定申請をしている87カ国の外国人すべてに適用されている。 クルド人に「日本で働くな!」、「不法就労反対!」とシュプレヒコールを叫ぶデモ行進の光景も珍しいものではなくなった。だが、難民認定申請者が日本で働けるようになった経緯を踏まえると、こうしたデモが日本人のためになるのかという疑問も湧く。
中国人とクルド人
もしデモの主張を政府が受け入れ、難民認定申請者から就労の権利を奪ってしまうと、日本は2008年に逆戻りして保護費予算だけでは彼らのことを賄え切れなくなる。生活に困窮した認定者が増加し、民間支援団体の活動だけでは限界があることは明白だ。仮に生活に困窮した申請者のうち1万人が日本国内のあちこちをさまようようになれば、治安の観点から考えても明らかなマイナスだ。 クルド人に限らず、どの国の申請者の中にも、一定の割合で素行不良者は存在する。パキスタン人やバングラディッシュ人や中国人の中には凶悪犯罪に手を染める者もいる。だがデモ行進が街を歩き、シュプレヒコールが叫ばれたことはない。 クルド人のBさんは「川口で悪いクルド人は、中国人から仕事をもらうから」と説明する。もともと川口市は「西川口チャイナタウン」が知られており、市役所によると川口市の在留外国人数の1位は中国人である。ちなみに2位はベトナム人で、クルド人は上位にすら入っていない。 中国人が発注する仕事は、彼らが買い付けた土地と建物があり、老朽化した建物だけを解体して立て直すという案件が多い。日本人業者には絶対に発注しないという“信念”を持った中国人が存在し、彼らはクルド人に解体工事を依頼する。 中国人の仕事をいくつもこなすうち、日本人より在日中国人に好意を持つクルド人も多いという。Bさんは「私は日本人から仕事を教えてもらいましたから、日本人と仕事がしたいです」と言う。 第2回【“検挙人数”最多はベトナム人や中国人でも「クルド人」に非難が集中 “偽装難民”問題の背景にある「出入国在留管理庁」の複雑な事情】では、入管のパンクが偽装難民の温床になっている事実を伝える。 藤原良(ふじわら・りょう) 作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』(以上、太田出版)など。 デイリー新潮編集部
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