映画『パスト ライブス/再会』:時間と空間を超える愛、セリーヌ・ソン監督が語る
もうひとつのテーマは、韓国・カナダ・アメリカと自身も移住を繰り返してきたソン監督の経験が反映された、移民としてのアイデンティティだ。 「人は誰もが時間と空間を移動しながら生きていますが、ノラは国境を超えて移動したことで自分自身と人生をがらりと変えてしまいました。いうなれば、完全なる別人になったのです。バイリンガルであるノラは、2つの言語を話し、2つの文化を生きている。異なる文化と言語のもとに生まれ育った2人の男性に愛され、2つの言語で愛を理解することができます」 12年前のノラとヘソンは、Skypeのビデオ通話越しに連絡を取り合いながら、とうとう再会することができなかった。現在、ノラにはアーサー(ジョン・マガロ)というアメリカ人作家の夫がいる。
リアルな演技を支える演出
見どころのひとつは、ノラ役のグレタ・リー、ヘソン役のユ・テオ、アーサー役のジョン・マガロが織りなす、ドキュメンタリーのごとくリアルな演技のやり取りだ。ソンは俳優それぞれと脚本について綿密に話し合い、時にはさまざまな戦略を立ててシーンの演出に臨んだ。 たとえば、12年前のノラとヘソンがSkypeでビデオ通話をするシーンでは、リーとユの演技を別々に撮るのではなく、部屋のセットを2つ用意。双方をケーブルでつなぎ、お互いの演技をリアルタイムで撮影している。 「重要かつエモーショナルな場面なので、2人にはリアルな感情で演じてほしかったのです。こだわったのは、まだ接続が安定しなかった頃のSkypeを再現すること。今では当時ほどの問題があまり起こらないし、あのイライラを言葉で説明することは難しいので、当時の感覚を俳優の演技だけに頼って再現するのは難しいと考えました。 そこで、部屋同士を結んだケーブルに仕掛けを施し、思うままに接続不良を起こせるようにしたのです。撮影中は私が操作していたので、2人はいつ画面がフリーズし、音声が遅延するかを知らなかった。だから彼女たちは本気でイライラしていたんですよ(笑)」