なぜ地方空港で「航空燃料不足」が起きたのか? その背景と対策、持続可能な航空燃料(SAF)普及への取り組みを国交省航空局次長に聞いた
国の素早い対応、今冬の機会喪失を防ぐ
燃料確保は一義的には民間が取り組む事案だが、インバウンド旅行者の地方への誘客を政策として掲げる国は航空燃料不足に危機感を抱き、対策に乗り出した。その対応は急ピッチで進められ、6月には「航空燃料供給不足への対応に向けた官民タスクフォース」が立ち上げられた。全国の主要空港会社、石油元売会社、ANAやJALも加わり、今後の対応策について、短期および長期の視点で、行動計画をまとめる作業に入った。 急いだのは、遅くとも10月末からの今冬スケジュールに間に合わせるためだ。蔵持氏は「たとえば、10月に取りまとめるとなると、その効果は来年の4月春ダイヤや夏ダイヤになってしまう。急いだのは、これ以上の機会損失を防ぐため」と説明する。 短期的な行動計画では、新規就航や増便など各空港における需要が把握できる仕組みを構築していくほか、供給力と輸送体制を強化することがまとめられた。供給力では、当面、アジア便で週150便超相当の燃料の供給力確保を目指す。蔵持氏は「これで、週150便すべてが就航するとは限らないが、受け入れ体制を整えておくことは大事」と話す。 また、輸送体制の強化では、製油所から空港へのローリー直送の増加や内航船への転用、給油作業員の確保を盛り込んだ。 2025年度以降を見据えた中長期の取り組みでは、製油所・油槽所の既存タンクのジェット燃料タンク転用や空港のジェット燃料タンクの必要な容量の確保で供給力を強化。また、輸送体制では、タンクローリー台数の確保、船舶の大型化、サプライチェーンでの人員確保などを進める計画だ。 蔵持氏は「日本での燃料不足問題は海外でも知られるようになっていたが、今回の行動計画は、日本に飛ばすことに問題はないとのメッセージになると思う」と期待をかける。
もう一つの航空燃料問題、SAFの現在地
航空局が、もう一つ、航空燃料の領域で注力しているのが持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進だ。 日本は、国際民間航空機関(ICAO)の方針に従って、2050年までのカーボンニュートラルを目指している。SAFは、その切り札の一つとして位置付けられており、2022年には「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」を設置。国産SAFの原料調達および開発・製造、サプライチェーンの構築およびCORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation: 国際航空のための炭素オフセットと削減のための枠組み)認証の取得などを推進している。 SAFについては、欧州が「規制」という形で先んじている。欧州議会は、EU域内の空港で供給される航空燃料をグリーン化する法案「ReFuelEU Aviation」を可決。空港で航空燃料を供給する事業者に対して、SAFの混合割合を2025年まで2%にすることを義務付けた。その割合は、2035年までに20%、2040年までに34%、2045年までに42%、2050年までに70%と段階的に引き上げられる。 一方、日本では、2030年に日本の航空会社による燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を設定し、資源エネルギー庁が中心となって、石油元売会社に対して、SAF製造設備の構築に必要な設備投資を支援。そのほか「戦略分野国内生産促進税制」の中にSAFを対象に加えるなど税制優遇策を進めていく。 蔵持氏は「石油元売会社は、SAFへの投資で悩むところがあったが、生産に向けた環境整備が整ってきた」と手応えを示す。SAFの地産地消は始まったばかりだ。「日本では、長期的に、現実的に、支援と規制の両方をミックスした形で進めていく」方針だ。 また、蔵持氏は「今後は、国際的なルールメーキングが重要になってくる。その中に日本がしっかりと入って、主導権を握れるようにしていきたい」と強調。今後は、日本だけでなく、アジアの近隣諸国とも連携を進めていく方針だ。 SAFを含めて、カーボンニュートラルで世界に遅れをとれば、将来的に国際航空ネットワークの維持・拡大にも影響が出てくる可能性がある。蔵持氏は「航空の分野でも、訪日客6000万人という目標の実現を見据えた体制づくりが大切になってくる」と話し、国の成長戦略の一つとしてインバウンド観光を意識しながら航空政策を進めていく考えを示した。 聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫 記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹
トラベルボイス編集部