「変形性膝関節症」治療の第一人者に聞く…新たに分かった発症のメカニズム
変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減り、痛みや腫れ、曲げ伸ばしの制限、膝の変形が起こる病気だ。東京大学の大規模疫学調査では40代以降加齢とともに増加。「変形性膝関節症はお年寄りの病気」と思うなかれ。女性では40歳代でも1割、50歳代で3割が該当するとの結果だ。 膝痛とオサラバ!治療最前線(4)炎症の原因物質は進行に伴って減少し鎮痛剤が効きづらくなる ■痛みが出る前から対策が必要 「変形性膝関節症はこれまで軟骨の摩耗が最初に起こると考えられてきました。しかしその前に軟骨以外の組織が損傷し、結果、軟骨の摩耗を起こすことを示す結果が研究で得られるようになったのです」 こう言うのは、順天堂大学医学部整形外科学講座の石島旨章主任教授だ。変形性膝関節症のメカニズムが従来のものと異なることが分かってきたのは、欧米を中心にメカニズムを正確に解析しようとする動きが出てきたから。 「変形性膝関節症の診断は、長らくX線(レントゲン)で行われてきました。しかしX線には軟骨成分が映らない。そのため、早期の変形性膝関節症の評価が正しくされてきませんでした。ところが近年、軟骨成分も映るMRIの画像診断、またバイオマーカーを用いた研究や疫学研究によって、軟骨摩耗、半月板変性、骨棘、滑膜炎など関節構造の変化の過程が明らかになったのです」 石島教授がMRIを用いて早期の変形性膝関節症患者を調べた研究では、痛みの程度が小さい段階から半月板のすぐ下に骨棘ができることが判明。それにより半月板が本来あるべき位置から押し出されて内側に移動する「内側半月板逸脱」が生じ、変形性膝関節症に至るのではないか、とみられている。別の研究では、X線で変形性膝関節症が診断されていなくても、中高年では内側半月板逸脱が多いことが報告されている。 つまり、X線で診断される前、または膝の痛みが出てくる前から変形性膝関節症に至る因子を抱えている可能性がある。 冒頭で東京大学の大規模疫学調査の結果を紹介したが、これはX線で検査した場合の変形性膝関節症の有病率だ。“変形性膝関節症予備群”も含めると、「女性では40歳代でも1割、50歳代で3割」をはるかに超える数の人が該当することになる。このまま膝関節に負担がかかる生活を続けていると、5年後、10年後には、今できている動きが困難になる恐れがあるのだ。 ■膝周辺の筋力訓練は痛み止め以上の効果 対策としてできることは、いくつかある。 「変形性膝関節症の危険因子として、肥満が挙げられます。肥満が膝関節に負担を与えている可能性に加え、肥満による糖尿病や脂質異常症などの代謝異常で、持続的に慢性炎症が起こる。これが関節軟骨の変性を招く」 肥満解消は必須。また、糖尿病、脂質異常症があるなら、その治療にあたる必要がある。 正座、しゃがみこむ姿勢は、膝へ与える負担が大きい。これらの姿勢からの立ち上がりの際には、ひねりながら立ち上がらないなど十分注意して行うようにしたい。 さらには、運動だ。 「特に膝周囲の筋力訓練は変形性膝関節症に非常に有効です。日本整形外科学会による全国調査でも、鎮痛剤以上に痛みを和らげる効果があると実証されています」 例えば、次のような方法がある。 (1)椅子に腰掛け、片方の足を水平に伸ばし、5~10秒間そのままキープ。 (2)横向きに寝て、上の脚を伸ばしたまま20センチほど上げて5秒間キープ。 (3)脚を伸ばして座り、かかとをゆっくりと滑らせて体の側に近づけ、膝をできる限り曲げる。その後、ゆっくりとかかとを滑らせ、膝をできる限り伸ばす。かかとの下にタオルを敷くと滑りやすい。 いずれも簡単。生き生き歩き回れる将来に向けて、今日から始めよう。