「世界のライブミュージックの首都」どの会場から行ってみる?【オースティン音楽旅行記Vol.2】
East Austin:泣きながら踊るパンクとカントリーの真髄
夜は6th Streetのもっと東側を歩いてみた。中心部より人通りは少なくなるが、店の照明が煌びやかで散策するのは楽しい。1940年代から営業しているテックス・メックス料理のCisco’s、メスカル専門バーのLa Perlaは外装もキュートだし、屋外テラスもあるダイナー兼バーのRevelryでは、日によってライブやDJも楽しめる。 まずはOmarさんから「ロック好きならぜひ」と推薦されたHotel Vegasへ。ローカルバンドを大音量で楽しめる150人キャパのライブハウスで、入り口に貼られたフライヤーからもパンク・テイストが伝わってくる。この日は新人ショーケースで入場料は10ドル。最初に観たバンドは演奏も見た目も骨太だったが、2番目のスリーピースはいわゆるスラッカーバンドで、ヘロヘロな歌やMCの緩さに親近感を抱いた。 Hotel Vegasはバーも充実していて、東京のライブハウス事情を思うと羨ましいかぎり。店頭でプッシュされていたブラッドオレンジのネグローニは酸味も効いている。 さらに、店の奥には広大なバックヤードがあり、ピクニックテーブルもたくさん設置されているので、転換時間にまったりできるのがありがたい……と思ったら、実は800人収容の屋外ヴェニューであることを後で知った。ここに何度も出演しているのが、筆者も大好きなガレージサイケの帝王Osees。最近も2023年のSXSWに続いて、2024年のLEVITATION(本連載Vol.1で紹介)では4日間連続で爆音ライブを披露しており、さぞかしクレイジーな盛り上がりだったに違いない。 そこから徒歩2分でハシゴしたのは、ホンキートンクのThe White Horse。週末は長蛇の列ができあがるエリア屈指の人気店で、カントリー、ロカビリー、ロックンロールといった極上のルーツ音楽を浴びながら、観客たちが思い思いにダンスする。店内にはウイスキーのタップ、裏庭にはタコスのフードトラックがあり、食事や人間観察をしながら寛ぐのもいい。しかも入場料は破格の5ドル。シカゴにおけるGreen MillやKingston Minesと同様、地域の憩いの場にして外せない観光スポットであり、個人的にも楽しみにしていた。 心待ちにしていたのには理由がある。オースティンの気候や街並みが、カントリーと驚くほどフィットすることに気づいたからだ。 宿泊したホテルの部屋にはレコードプレイヤーがあり、棚からひと掴みしたウィリー・ネルソンの『Lost Highway』を試しにかけたら、自分のなかでスイッチが突然切り替わった。温暖だが乾ききったわけではない絶妙な湿度、豊かな緑とのどかな空気が、ウィリーの歌声と妙にしっくりくる。アメリカ国民がアイデンティティの拠り所とするカントリーは、日本人の自分にはどこか遠い存在のように感じる部分もあったが、ようやく理解の糸口を掴めたような気がした。 店内に入ると、カントリーハットやウエスタンブーツを着こなす男女がいる一方で、カジュアルに一杯を楽しむ人もいる。ビールが入った冷蔵庫には「ZZトップを大統領に」というステッカーが貼ってある。段差の低いステージで演奏するのは、日曜夜のレギュラーを務める5人組のArmadillo Road。ダンスフロアには幸福な景色が広がり、土の匂いを感じさせるカントリーソングが心に染み渡っていく。 筆者は今にも泣き崩れそうだった。実はパスポートをなくしたことに気づいたのだ。アメリカの本質に触れようとしていたとき、自分は日本人である証明を見失いかけていた。肌身離さず持ち歩いていたはずなのに……動揺のあまりググってみるも、ヒューストンの日本国総領事館で再発行するには260kmも移動しなければならない。 カントリーソングの多くが、メジャースケールの明るい曲調で「涙」を歌ってきた。泣き笑いにも似た音楽は、逆境のときこそ切なく胸に刺さる。葛藤を浄化するような歌とアンサンブルに浸り、やさしさに包まれながらホテルに戻ると、机のうえにパスポートがポツンと置いてあるのに気づき、しばらく嗚咽が止まらなかった。 ※【オースティン音楽旅行記】は全4記事 続きはRolling Stone Japanのウェブに掲載 ※取材協力:ブランドUSA、オースティン観光局
Toshiya Oguma